一般的にはヒゲと呼ばれることの多い触鬚(しょくしゅ)をもつ魚種は数多く存在している。ほとんどの種は触鬚を動かすことはできない。例外的に、ヒメジや近縁のオジサンおよびギンメダイは触鬚を動かすことができる。ヒメジ類はさまざまな方向に触鬚を活発に動かして、海底の餌を巧みに探し出して捕食する。動かせる触鬚によって餌の位置を3次元的に定位するメカニズムを明らかにすることが本課題の目的である。初年度の令和2年度において、1)ヒメジの顔面葉の連絡と構成ニューロンの調査、2)ヒメジの触鬚の部位による味蕾の分布様式、分布密度や大きさの触鬚の部位による違いを調査した。令和3年度は、3)ヒメジと同じヒメジ属に属するヨメヒメジ、さらに別属であるウミヒゴイ属のオジサン、ミナベヒメジ、オキナヒメジ、ホウライヒメジについて、味蕾の分布密度や大きさの触鬚の部位による変化を調査し、種間比較を行った。その結果、味蕾の分布様式に大きな種差が存在することが明らかとなった。4)触鬚を動かす筋周辺に固有感覚装置が存在する可能性を調査するために免疫組織化学を行った。令和4年度は、十分な結果が得られていない1)と4)の実験を追加で実施した。最終年度である令和5年度は、やはり十分な結果が得られていない1)の実験を主にオジサンを材料として集中的に実施した。その結果、一次味覚中枢の神経連絡には他の魚種では知られていない特有のものがあることが明らかになってきた。
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