2022年度までに行った研究により以下の事実を確認し、珪藻の新生理作用についてはほぼ確実になった。 1)電子顕微鏡観察により、珪藻の培養時、共存ケイ酸塩鉱物の表面に特有の溶解痕が観察されること 2) ケイ酸塩鉱物粒子の存在により珪藻からの透明細胞外ポリマー粒子の分泌が誘起されること 3) ケイ酸塩鉱物粒子と透明細胞外ポリマー粒子の高い親和性があり、速やかにケイ酸塩鉱物は透明細胞外ポリマー粒子中に捕捉されること 4) pH指示薬を用いた蛍光顕微鏡により珪藻コロニーは強く酸性化されること 透明細胞外ポリマー粒子は栄養が枯渇したときに珪藻から分泌されることを考慮すると、これらの観察結果は、珪藻に不可欠であるケイ酸イオンが不足した時に、鉱物からケイ酸イオンを得るために、透明細胞外ポリマー粒子を分泌し、ケイ酸塩鉱物を捕捉・溶解する一連の生理過程の存在を強く示している。 ところが、この新しい作用は多くの点で海洋化学の従来の研究と衝突することが多く、欧米の学術誌では投稿論文が却下された。発表の方法が課題になっている。今年度は研究の経費をほとんど全て旅費にあて、ヨーロッパの研究者と議論し、成果の公表の方法について議論した。前年度までの研究の成果は、私が希土類元素を用いて導いた知見と整合的であるが、希土類元素の研究でも強い抵抗に出会ってきたことなどを考慮し、多くの断片的な知見をつなぎ合わせ、まとめることが最も説得力のある方法であるという結論に達した。投稿論文の形態では、文量的にまとめにくいため、本年度は、それらの成果をつなぎ合わせた成書の執筆を行った。日本語の本の執筆と出版、今回訪ねた英国の研究者の協力を得て、英文の本の執筆と投稿までを行った。
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