R2年度は添加糖による会合体解離の度合いおよび解離速度を検討し、グルコース添加によりイカヘモシアニンの会合体分子は解離すること、グルコースによる解離効果はヘモシアニン濃度の影響を強く受けることを明らかにした。R3年度は脱グリコシル化したヘモシアニンサブユニットを調製し、会合体形成能を検討したところ、会合体形成が阻害されることを認めた。そこで、R4年度はヘモシアニンの結合糖鎖解析の実施、およびヘモシアニンサブユニットから修飾糖鎖の分離調製とそれを用いた糖鎖-タンパク質間の相互作用の測定を計画していたが、R2~R3年度はコロナウイルス感染予防のため、練習船での活動が制限され、血液試料を採取するための活イカのサンプリングが実施できなかった。R4年秋にようやくサンプリングを再開できたものの、糖鎖解析や糖鎖調製に使用できるヘモシアニン試料の十分量の確保ができなかった。そこで、糖鎖-タンパク質間の相互作用の直接測定に代わり、生理機能である酸素結合能や、超遠心分離分析を種々条件下で検討することとした。実験方法を変えた理由は、実験に要する試料量が比較的少量で済むためである。その結果、グルコースのみならず、血リンパ成分である二価カチオンの影響も、ヘモシアニン濃度の影響を強く受けることが明らかとなった。すなわち、ヘモシアニン濃度が低い場合はサブユニットの解離が進行しやすく、グルコースや二価カチオンによる解離促進効果が大きくなった。一方、ヘモシアニン濃度が高いと、これら因子による解離促進効果はあまり見られなくなった。すなわち、ヘモシアニンの分子構造はタンパク質濃度によってフレキシブルに変わり、その分子構造あるいは構造安定性の変化に伴い、生理機能も変わることが示唆された。
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