湖沼は主要なメタンの自然放出源である。研究代表者は、湖沼にて採集した環境サンプルから、メタンを単一炭素源とする条件下で微細藻類が増殖してくることを確認しており、メタン酸化菌と微細藻類から成るメタンを起点とした共生系が存在する可能性を見出した。本研究では、この共生系における生物間相互作用を明らかにすることで、水圏でのメタン循環メカニズムの理解を進め、その知見を温暖化ガス抑制技術やメタンからの物質生産技術へと昇華させることを目指す。これまでに申請者は環境サンプルの微生物相解析・網羅的代謝物解析・ガス成分解析を実施した。まずメタンガスが自然に発生している田んぼや河川、井戸など10箇所から採水し、メタンを唯一の炭素源とする試験管内で2週間培養を行った。その結果、7箇所のサンプルで藻類の増殖を確認することができ、これらのサンプル のメタンガスを用いた培養の前後で、16Sと18Sを使った菌叢解析で生物叢の変化および微生物の相対的な増加量を調べた。その結果、メタン酸化菌やメタノール 資化性菌などと共に、微細藻類が増殖していることが明らかとなった。また試験管内での光合成・酸素濃度などの生理学的解析により、メタン環境下でもクロロフィル蛍光が確認でき、わずかに電子が流れていることから、メタン環境にて微細藻類が光合成を行い増殖していることが示唆された。さらに複合微生物群の中から微細藻類とメタン酸化菌を分離し、その中から藻類の培地でも増殖可能なメタン酸化細菌5種とCO2環境下で増殖が旺盛な微細藻類株を選抜した。今年度はそれらの株を膜で隔てたフラスコで培養を試み、微細藻とメタン酸化菌を共培養することで、微細藻類の増殖が促進されることを確認した。今後、この共培養系を利用することでメタンからのメタン酸化菌、微細藻類による物質生産プロセスが構築できると期待される。
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