研究課題/領域番号 |
20K06237
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 敬典 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40728268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クラミドモナス / プログラム細胞死 / タンパク質リン酸化酵素 / 栄養欠乏応答 / クロロフィル分解 |
研究実績の概要 |
本研究では、水圏の生物間相互作用や物質循環に密に関与すると推定されている、藻類のプログラム細胞死(PCD)の制御機構を分子レベルで解明することを第一の目的としている。第二の目的として、PCD制御因子の破壊や過剰発現により、PCDの制御による藻類を利用した物質生産の基盤確立を目指している。 2021年度は、緑藻クラミドモナスにおいて、PCDを制御すると推定されていたタンパク質リン酸化酵素Triacylglycerol Accumulation Regulator 1 (TAR1) の解析と、新奇PCD制御因子の同定を進めた。TAR1に関しては、先行研究で野生株C9から作出されたtar1-1変異体の解析から、TAR1がS欠乏やN欠乏条件下で、クロロフィルの分解(白化)を抑制することが報告されていた。しかし野生株C9は、他の野生株と比べてN欠乏下での白化の進行が著しく速い株であり、tar1-1の表現型がC9に依存したものである可能性が懸念された。そこで、CRISPR-Cas9により、複数の野生株(C9、CC-125、CC-1690)からtar1変異体を作出し、その表現型の比較解析を行った。いずれの変異体でも、白化と細胞死の抑制が見られ、TAR1はN欠乏条件下での細胞死を抑制していることが示唆された。新奇PCD制御因子の探索では、変異体ライブラリのスクリーニングから、鞭毛内へのタンパク質輸送および排出に関与するバルデー・ビードル症候群9(BBS9)をコードする遺伝子の破壊により、白化と細胞死が促進することを見出した。また、機能未知コイルドコイルドメイン含有タンパク質 (coiled-coil domain containing protein; CCDC) と、RNAポリメラーゼIIIのリプレッサーであるMAF1を、白化あるいは細胞死を制御する新奇因子の候補として選抜した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質リン酸化酵素TAR1については、C9から作出されたtar1-1だけではなく、複数の野生株から作出したtar1変異体でも、N欠乏条件下で白化を促進していることを明らかにした。現在は、光合成活性などのデータを補いつつ論文化を進めている。新奇PCD制御因子の探索については、その候補としてバルデー・ビードル症候群関連タンパク質9 (bbs9) 、新奇コイルドコイルドメイン含有タンパク質 (ccdc)、およびPolIIIリプレッサー(MAF1) の3つの因子を選抜した。MAF1以外の因子は、白化や細胞死を制御するという報告がなされておらず、新規性が高い。このように、PCD関連因子の候補の探索については、当初の予定より順調に推移している。一方で、2021年度中にはアポトーシス検出キットを用いたPCD検出系を確立する予定であったが、コロナウイルス感染拡大の影響もあり着手できておらず、2022年度に行うことにした。以上のように、研究の一部は遅延したが、新奇因子の候補の探索は当初の予定以上に進んだため、全体としては順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には、主にPCD検出系の確立と、新奇PCD制御因子候補の解析を進める。 ①PCD検出系の確立 これまで得た変異体では、膜不透過性のタンパク質染色色素(エバンスブルー)により染色することで細胞死を評価してきた。しかし、エバンスブルー染色では、PCDとその他の細胞死(細胞の損傷に伴う細胞死)の区別がつかず、tar1や新奇因子による細胞死の制御が、PCDによるのか否かは不明であった。クラミドモナスでは、PCDの指標として、細胞膜ホスファチジルセリンの反転や、カスパーゼ活性の上昇、DNAのヌクレオソーム単位での切断などが、PCDの指標として用いられるため、市販のPCD検出キットを利用したPCDの検出を試みる。 ②新奇PCD制御因子の解析 栄養欠乏下での白化や細胞死を制御する因子の候補として、新たにbbs9、ccdc、およびmaf1を同定した。bbs9については、複数のアリル株の解析を行ったが、ccdcおよびmaf1では、アリル株や相補株については未解析である。そこで、2022年度には、これらの新奇因子の変異体について、アリル株や相補株の解析を進め、原因遺伝子と表現型の因果関係を確定する。ccdcについては、RNA-seq解析から、S充足条件でS欠乏応答遺伝子群の発現が上昇していた。これは、先行研究で報告されたタンパク質リン酸化酵素SnRK2.2の変異体の表現型と類似している。興味深いことに、SnRK2のリン酸化カスケードにより、哺乳類のアポトーシス制御因子と相同性を示す遺伝子の発現が制御されることが報告されており、SnRK2がPCDを制御する可能性や、SnRK2とccdcが機能的に関連する可能性も考えられる。そのため、ccdc変異体については、SnRK2.2変異体と比較しながら表現型解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大の影響もあり、予定していた研究の一部(PCD検出系の確立など)については、2021年度から2022年度に延期した。
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