研究課題/領域番号 |
20K06242
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
塚田 岳大 東邦大学, 理学部, 准教授 (50596210)
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研究分担者 |
後藤 勝 東邦大学, 理学部, 准教授 (80379289)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血清毒 / ニホンウナギ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ニホンウナギの「血清毒」の遺伝子とそのタンパク質構造を同定することである。ウナギの血清毒は、タンパク性で熱に弱く、摂取や接触により下痢、嘔吐、皮膚炎などの症状を引き起こすことが知られているが、毒の本体(遺伝子)はまだわかっていない。研究代表者は、ウナギ血清毒の化学性状およびニホンウナギのゲノムデータから、ウナギ血清毒の候補遺伝子を予想した。 令和2年度は、この予想遺伝子の配列をもとにプライマーを設計し、4匹のウナギ肝臓cDNAを鋳型にRT-PCRを行い、全長クローニングを行った。クローニングした配列は、約3000bpのコーディング領域をもち、タンパク質に翻訳したときのN末端にはシグナルペプチド配列が存在した。以上の結果から、ウナギ血清毒が約115KDaの分泌性タンパク質であることがわかった。一方、クローニングした配列とゲノムデータの配列を比較したところ、合計55塩基の変異および60塩基のギャップが見つかった。このことから本研究で単離した予想ウナギ血清毒遺伝子は、ゲノムデータベースで見つけた候補遺伝子とは異なる新規の遺伝子であると示唆された。 次にRT-PCR法によりウナギ血清毒の主要産生組織を同定したところ、肝臓に特異的に発現する遺伝子であることがわかった。さらに、予想ウナギ血清毒に特異的に結合するcRNAプローブを用いてin situ hybridization法を行ったところ、肝細胞に強く発現していることが明らかとなった。これらの結果により、ウナギ血清毒は肝臓で作られ、血清に分泌される血清タンパク質の一種であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度(初年度)の研究計画は、1)主要産生組織のcDNAを用いてPCRクローニングを行い全長mRNA配列を決定する、2)RT-PCRにより主要発現組織を同定する、3)in situ hybridizationを確立しウナギ血清毒発現細胞を同定する、4)クローニングした全長配列を、大腸菌用発現ベクター(pET30aベクター)に組み込み、リコンビナントタンパクの精製を行うことである。年度途中に、グラジエント機能付きサーマルサイクラー(Eppendorf社、Mastercycler Gradient)が故障したため(修理不能)、前倒し支払い請求を申請して新しいサーマルサイクラー(Applied Biosystems MiniAmp Plus)を購入した。トラブルはあったものの、年度内に1)-3)の研究をすべて終了することができた。4)に関しては、シグナルペプチド配列を除いたウナギ血清毒遺伝子をpET30aベクターに組み込み、小規模スケールでのリコンビナント発現系を確立している。現在は、Hisタグを用いた精製を行っている。概ね計画通り進んでおり、実験計画の変更はない。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている小規模ウナギ血清毒の精製が終了したのち、大規模精製を試みる。大量のリコンビナントウナギ血清毒が精製できた時点で、X線回折実験の条件検討を行う。すなわち、スクリーニングキットを用いた結晶化条件の検索と結晶化条件の最適化である。これらは1日50条件の結晶化を基本とし、1年間でおよそ1万条件を予定している。結晶化が進まない場合は、血清毒の精製法の再検討、安定化剤を用いた条件検討、近縁種からのサンプル調製を予定している。また、血清毒タンパクの分子量が大きいため、ドメイン毎に分けてサンプルを調製・結晶化することも想定している。結晶化条件が決まり次第、X線回折強度データ測定を行い、重原子多重同型置換法などの手法により位相問題を解決した後、立体構造の構築および精密化の過程を経て立体構造を決定する。一方で、精製した血清毒を用いて生物毒性評価を行う。精製タンパクをマウス静脈および経口投与し、ウナギ血清毒の致死量(LD50)を調べる。また、ウナギ血清毒がウナギの被食者および捕食者に強い毒性を示すか調べるため、甲殻類や水生昆虫(被食者)および海産大型魚類(上位捕食者)を用いた毒性評価も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中にグラジエント機能付きサーマルサイクラーが故障したため、前倒し支払い請求を行い新しいサーマルサイクラーを購入した。新しいサーマルサイクラーの購入には、約24万円の前倒し支払いが必要であったが、支払い請求の直接経費の請求額は10万円単位であるため、約6万円の次年度使用額が生じた。2021年度に請求している100万円と合わせた合計106万円の使用は、ニホンウナギ(12万円)、マウス(8万円)、クローニング試薬(18万円)、分子生物学試薬(18万円)、リコンビナント関連試薬(12万円)、結晶化消耗品(20万円)、甲殻類等の動物飼育(3万円)、学会発表(5万円)、論文投稿料(10万円)である。
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