魚類のウイルス病対策ではワクチネーションがその主体となっているが、ワクチン単価が高いことからワクチン接種が普及せずに被害が拡大している状況が散見される。マダイイリドウイルス病のワクチンは、魚類培養細胞で産生した病原体をホルマリンで不活化したものであるが、ウイルス産生効率が低いため製造コストの上昇につながっている。一方、申請者が実施した先行研究では、培養細胞における何らかの因子によりウイルス複製が阻害されていることが示唆されている。そこで本研究では、培養細胞におけるウイルス複製阻害因子を網羅的な遺伝子発現解析により推定し、その情報を元にゲノム編集技術を利用してウイルス複製阻害因子をノックアウトした細胞株の樹立を試みた。マダイイリドウイルスの培養に用いるイシガキダイ由来細胞(SKF-9)について、ウイルスが増えやすい継代数28の細胞株およびウイルス産生量が低下した継代数103の細胞株を用いて、ウイルス感染細胞のRNA-seqによる網羅的なトランスクリプトーム解析を実施した結果、ウイルス産生量が低下していた継代数103の細胞では、免疫応答に関わるChemokine signaling pathwayにおける遺伝子群がウイルス複製の阻害に関与している可能性が示唆された。これらの情報を元に、2種類の遺伝子を対象にCRISPR-Cas9システムによるノックアウト試験を実施した。ドナーベクターの相同組換えによりPuromycine耐性遺伝子およびGFP遺伝子をターゲット領域にノックインし、ゲノム編集細胞を薬剤により選抜した。その結果、蛍光細胞が約1カ月間は維持できたが、細胞の増殖速度が非常に遅かったためノックアウト細胞のウイルス感受性を評価するまでには至らなかった。
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