2020年の種苗法改正によって育成者権の強化が進む。これは、先進国を中心に強化される農業分野の知的財産権強化の流れを受けたものである。これまで登録数を育種成果として分析されたものはあるが、品種の場合、ひとつの有用な品種が高い市場シェアを持つ場合があり、各品種の価値は異なると予想される。 今回の研究では、こうした品種ごとに価値が異なることを前提に、私的価値の推定を試みた。具体的には、より長期でデータを入手可能な草花類を対象とし、特許更新モデルを援用した。すなわち、近年の種苗法改正を評価したいが、その成果を測るにはデータの蓄積を待たざるを得ず、時間を要する。一方で、1998年の種苗法改正については、育成者権の保護期間である20年を経過しており、育成者権の放棄や満了が分かることから、改正の成果を知るには十分なデータ蓄積がある。そこで、1998年の種苗法改正を対象とすることで、育成者権の強化がもたらす影響を明らかにしようとした。 具体的には、育成者の多くが私企業である草花類を対象とし、特許更新モデルによって登録品種の私的価値を推定した。結果、新規登録品種数は近年、減少傾向にあるが、初期収益で示される私的価値は増加していた。とりわけ海外企業の初期収益が国内企業に比べて高いことは、種苗法改正が内外問わず企業の投資を誘発することを意味する。2020年の種苗法改正は稲・麦などの公共財的特徴の強い財を対象としており、私企業を対象とした分析結果が当てはまるとは必ずしも言えないが、品種数の多寡と品種の価値は必ずしも一致しないことが明らかとなり、知的財産権をどのように評価するのか、農業分野において改めて検討する必要があることを指摘しておきたい。
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