研究課題/領域番号 |
20K06252
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
岩本 博幸 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (90377127)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 消費者行動 / 倫理的消費 / 家畜福祉 / 動物倫理 |
研究実績の概要 |
本年度はアニマルウェルフェア畜産物に対する消費者の支払意志額(WTP)を定量的に求めるとともに,WTPがいかなる意識・態度の形成過程を経て表明されうるのかを主にアニマルウェルフェアに関する動物倫理の側面から検討することを課題とした。豚肉ももスライスを評価対象財とする選択実験を通じてデータを収集し,仮想的なアニマルウェルフェア認証表示に対する消費者の支払意志額(WTP)の推計にランダムパラメータ・ロジットモデル(RPLM),WTPの背後にある規定因を動物倫理の側面から検討するために,共分散構造分析(SEM)を試みた。規定因として伝統的な倫理学説の枠組みに従い,功利主義的な観点からの因子「苦痛の軽減」および「動物利用の重視」と義務論を背景にもつ「動物の権利」および「手段的価値の否定」を仮定した。 分析の結果,第1に,アニマルウェルフェア認証表示へのWTPは60円となった。第2に,WTPの背景には,ペット,野生動物などの生きる権利の擁護や高い知能をもつ動物の保護などの主張を支持する「動物の権利」が存在し,WTPに正の影響を与えていることが示された。第3に,「動物の権利」はペットとしての動物の飼養,農作物被害の原因となる野生動物の殺処分,釣りやハンティング,競馬・乗馬など動物の手段的価値による動物利用に否定的意見を支持する「手段的価値の否定」と正の相関ももつことが示された。第4に,家畜生産や医薬品動物実験,化粧品動物実験,食品添加物動物実験,動物園での展示など人間による動物利用に肯定的な意見を支持する「動物利用の重視」と「動物の権利」および「手段手価値の否定」とは負の相関関係にあることが示された。第5に,ペット,野生動物,動物園動物の苦痛の最小化またはストレスの軽減を支持する「苦痛の軽減」は「動物の権利」と正の相関関係にあることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の社会心理学モデルによる動物福祉に対する心理的規定因の解明に続いて,動物倫理学説による心理的規定因モデルの検討を具体的な消費者調査データから実証的に試み,消費者は概ねアニマルウェルフェア認証を受けた畜産物に対して肯定的な評価をしていること, WTPの背後には,功利主義的な「苦痛の軽減」や「動物利用の重視」よりも,「動物の権利」および「手段的価値の否定」といった義務論を背景にもつ「動物の権利論」の発想に近い概念が影響を与えているといった示唆を得ることができたのは,ほぼ当初計画通りであると評価できる。しかしながら,対象となる動物が置かれている状況によって,苦痛やストレスに対する消費者の態度が異なる可能性を考慮した分析モデル,国際的な比較分析にも拡張しうる分析モデルについて検討を試みたものの,社会調査の委託先である民間調査会社のリソースが新型コロナ蔓延によって不足し,本課題が要求する水準での年度内調査が不可能となったことから,研究期間の延長をせざるを得ない状況となった。その点において進捗に遅れが生じている。ただし,調査実施準備にさらなる検討を加える余地が生じたことで,より精度の高い実証分析につながるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の分析結果から消費者は概ねアニマルウェルフェア認証を受けた畜産物に対して肯定的な評価をしている。また,WTPの背後には,功利主義的な「苦痛の軽減」や「動物利用の重視」よりも,「動物の権利」および「手段的価値の否定」といった義務論を背景にもつ「動物の権利論」の発想に近い概念が影響を与えていることが示唆された。また,ペット,野生動物,動物園動物に対する苦痛,ストレスの軽減を支持する態度が,飼養,輸送,屠畜における苦痛の軽減を目的とするアニマルウェルフェアについてWTPとしての評価に直接結びついているかを確認することはできなかった。このことから,対象となる動物が置かれている状況によって,苦痛やストレスに対する消費者の態度が異なる可能性が示唆されており,この点を考慮しつつ,さらに国際的な比較分析にも拡張しうる分析モデルについて検討,消費者調査を実施し,本研究の総括的な結論を求めることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会調査の委託先である民間調査会社のリソースが新型コロナ蔓延によって不足し,本課題が要求する水準での年度内調査が不可能となったことから,研究期間延長と調査費用の次年度繰り越しをせざるを得ない状況となった。 調査設計自体は概ね終えており,研究期間延長による時間的リソースを活用して精度の高い調査の実施に使用する計画となっている。
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