本研究では,有機水稲栽培導入がどのような経済的成果と環境的成果をもたらすのかについて,農業経営のバイオエコノミックモデルを作成して分析を行った.分析結果に基づいて,有機水稲栽培面積の拡大可能性と環境農業直接支払いの制度設計改善に対して示唆を与えた.本研究におけるバイオエコノミックモデルは,農業経営において最大化すべき経済目的関数と最小化すべき環境目的関数を持つ多目的最適化モデルとして定式化された.本研究の補助事業期間は2020~2022年度の3年間であったが,いくつかの理由のために2023年度まで延長された.各年度における研究進捗状況は次の通りであった.2020年度では,コロナ禍のために十分な研究時間を確保できず,バイオエコノミックモデルの一次データを入力しただけに留まった.2021年度では,研究時間の確保に努めつつ,バイオエコノミックモデルのデータセットを完成させた.続いて,環境影響評価手法として知られるライフサイクルアセスメントを用いて農作物栽培における複数の環境影響を定量化し,バイオエコノミックモデルの環境目的関数を作成した.そして,完成したバイオエコノミックモデルを用いて多目的最適化分析を実行した.本研究成果は国内学会で口頭発表された.2022年度では,前年度の研究成果に基づいて英語論文の執筆作業を進めたが,分析に用いた多目的最適化ソフトウェアの大幅なアップデートに伴う分析結果の妥当性確認および更新作業にかなりの時間を要した.その結果,年度内の論文受理には至らなかったため,補助事業期間の延長を申請した.2023年度では,投稿していた原稿が国際英文誌に受理された.
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