本年度は複数の事例調査の結果を踏まえた農業者の分析を行った。まず、地域特産品加工による地域活性化の事例を分析した。この事例では、規格外トマトを用いた特産品開発が進められており、地区で栽培されるトマトの品種に対して強いこだわりが観察された。ただし、種苗は全国で入手可能なものが購入されており、地域独自の品種は継承されていなかった。加工用トマトを栽培することで加工事業の効率性が向上する一方、商品開発ストーリーの一貫性に疑問が生じる懸念があったため、生食用トマトの品種が引き続き栽培されていることがわかった。このことから、地域の歴史に根ざした農産物による地域活性化の取り組みにおいて、種苗の調達方法を変更しないことの重要性を示す事例が確認できた。 続いて、キウイフルーツの花粉調達方法に関する調査を実施した。日本でのキウイフルーツ栽培は1970年代以降に始まったため、伝統的な品種として位置づけることは難しいものの、花粉の調達方法に興味深い特徴が見られた。キウイフルーツ栽培には、自家採取した花粉または輸入花粉が使われており、どの花粉を用いるかについて生産者の意思決定が農業経営だけでなく、農産物の品質を通じて消費者評価に影響を与える可能性が考えられた。生産者へのアンケート調査の結果、自家採取と輸入花粉の利用は非排他的であり、量が不足するリスクを予測して多めの花粉が確保されることがわかった。その後、栽培、品種開発、花粉採集を通じた生産国・地域の一貫性に対する消費者評価を明らかにするため、オンラインアンケート調査を実施した。分析の結果、消費者は国内での栽培だけでなく、国内で採集された花粉を用いた栽培方法を高く評価することが明らかになった。 これらの事例分析を通して、農業者と消費者は農産物の生産国・地域だけでなく、一貫性も考慮に入れて意思決定しうることが示唆された。
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