労働時間や作物収量等の農業生産指標の標準値設定は、標準時間や標準原価の見積もりに必要なものであり、PDCAサイクルの実行や原価管理に有用である。農業生産指標の標準設定においては、データの代表値として、典型性及び頑健性の観点から最頻値を計算することが望ましい。しかしながら、最頻値はこれまで生産管理の指標として用いられてこなかった。通常は、最頻値を最多出現値とみなすか、ヒストグラムの最大階級の階級値とみなすことが多い。前者では連続値の最頻値を求められないし、後者はヒストグラムの階級幅を最適化してもヒストグラムの最初の階級の開始点である端点のとり方で最頻値の値が変わってしまって一意性に欠ける。通常の最頻値はどちらも生産指標の標準値を算出できない。そこで、本研究では、ヒストグラムによらない一意的な最頻値の一つとして「鍾形頻度最頻値」を考案した。鍾形頻度最頻値とは、位置パラメータmと観測値xiとの差の絶対値が、スコットの選択に基づく最適な階級幅の3/4倍の幅の範囲にある場合に最大値が1で最小値が0となる、上に凸である2次関数となり、最適な階級幅の3/4倍の幅よりも大きい場合に0になる鍾形頻度要素関数ziを設定して、すべての観測値について鍾形頻度要素関数ziの総和としての鍾形頻度関数Σziが最大となる位置パラメータmの最適解である。鍾形頻度最頻値は混合整数非線形計画モデルを構築して最適化ソフトウェアによって大域的最適解として計算される。さらに本研究では、ヒストグラムによらない一意的なもう一つの最頻値として「代替最適平均」を考案した。上述の鍾形頻度関数を矩形頻度関数に置き換えたものである。位置パラメータの最適解は代替最適解(区間)になるので、その平均値をもって最頻値とした。代替最適平均は表計算ソフトウェアで計算できる。両者ともに実際の農業生産のデータに適用して実用性を確認した。
|