研究課題/領域番号 |
20K06278
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久野 秀二 京都大学, 経済学研究科, 教授 (10271628)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オランダ農業 / 地域食農政策 / 食料市民 / 地域食農ガバナンス / 多面的機能型農業 / 都市圏フードシステム / フードポリシーカウンシル / 都市食料政策ミラノ協定 |
研究実績の概要 |
本研究は、地域食農ガバナンスの再編を通じた食農システム転換の可能性とその条件及び課題を、オランダを事例に明らかにすることを目的としている。具体的には、地域の消費者・生産者・事業者の政策形成過程への参加を促し、代替的食農ネットワーク構築を志向する彼らの主体的活動を支える地方自治体の地域食農政策が、中央政府の政策や主要経済主体の事業活動に及ぼす影響を考察する。さらに、地域食農ガバナンス及び代替的食農ネットワークへの参加によって地域の消費者・生産者らが地域性を超えて食農システム転換を展望し行動しうる「主体的市民」へと成長する可能性を考察する。 2020年度は、対象地域であるアーネム市、エーデ市、ロッテルダム市、アムステルダム市および周辺の農村自治体において自治体関係者や食農団体、市民団体、研究者等へのインタビューと公文書・報道資料等をもとに地域食農政策の形成・展開・再編過程を明らかにするとともに、現地予備調査を実施して、各対象地域から5~6事例の個別事業を選定し、事業の実施主体・参加主体の意識や行動の変化を考察するための準備を進める予定にしていた。 しかしながら、新型コロナ禍に伴う渡航制限により現地調査を実施することができなかったため、第一に、2018年と2019年に実施していたロッテルダム市、アーネム市、エーデ市でのインタビュー調査・アーカイブ調査で得た情報をもとに地域食農政策の形成・展開・再編過程の詳細を整理することに専念し、とくに新型コロナ禍の影響についてメールやSNSを用いて現地協力者から追加的な情報を入手して論文にまとめた。第二に、オランダでの取り組みを相対化するため、対象地域を都市圏食料システムの構築に取り組む都市のネットワーク化が進んでいる欧州全域に広げて、政策動向や実施状況、欧州研究者による研究動向を整理し、2021年度および2022年度の本調査に備えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題はオランダで実施する数次の現地調査を中心に構想されたものであり、2020年度も現地予備調査を実施して関係主体へのインタビュー調査、資料収集、2021年度以降の本調査で対象とする個別事例の選定作業を進める予定にしていたが、新型コロナ禍による渡航制限の影響をまともに受けてしまったことが、進捗状況の遅れの主たる原因である。 地域の経済的・社会的・環境的な諸課題に食を通じて取り組もうとする地域食農政策と食料市民に着目した本研究課題は、もとより新型コロナ禍のような緊急事態を想定していなかったが、オランダをはじめ欧州諸国では従来から取り組んでいた代替的食農ネットワークの構築と地域食農政策の形成が、新型コロナ禍で打撃を受けた地域の生産者・消費者・事業者の拠り所となる事例が多数生まれており、2021年9月に開催が決まった国連フードシステムサミットを意識した議論も活発化していることから、研究課題を修正・発展させる必要があると判断するに至った。しかしながら、政策や事業の現場も混乱した状況が続いており、メールやSNSでのコミュニケーションにも限界があるため、全体的に政策文書や事業実施主体の各種報告書に基づく分析にとどまらざるをえなかったことも、進捗状況の遅れにつながっている。
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今後の研究の推進方策 |
日本ではワクチン接種が欧州諸国と比べて著しく遅れており、世界的にワクチン・パスポート等の導入で渡航制限が緩和されることになっても、日本と欧州との間の渡航制限が緩和される見通しは、少なくとも今年度中は低いと思われる。そのため、引き続きオランダ対象地域の地域食農政策や個別事例に関する資料を収集・分析しながら、必要に応じてメールやZoom等を用いたインタビューを実施することにする。また、個別事例の深掘りに困難が予想されるため、分析対象の枠をオランダ以外にも広げ、ベルギー(ヘント、ルーヴェン)、英国(ブリストル)、スペイン(バルセロナ)、オーストリア(ウィーン)、イタリア(ミラノ)、デンマーク(コペンハーゲン)等における地域食農政策の形成と食料市民の役割について比較分析を実施することも視野に入れて、準備を進めることにする。 また、日本では点としての代替的食農イニシアチブは相応に広がっているものの、それらが面としてネットワーク化し、さらに行政を巻き込んで地域食農政策へと展開するような事例が都市部ではほとんど見られない。日本ではオランダ農業モデルと言えば、輸出志向型・資本集約型の大規模農業と、それを支える産官学連携の産業クラスターばかりがイメージされるが、そのオランダでも広がりを見せ、政策言説にも反映しつつある地域食農システムの取り組みが紹介されることは皆無に近い。このような認識のギャップ、言説の歪みを念頭に、日本の状況とオランダ等の状況を比較するための視座に関するコンセプトペーパーを2022年7月にオーストラリア・ケアンズで開催される国際学会(2020年度に予定されていた国際農村社会学会の代替開催)で発表する予定であるが、本研究課題で予定している現地調査が実現した暁には、その詳細な分析を踏まえた研究成果を2022年度以降、本研究期間の終了後も見据えて、国内外の学会等で発表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、携行用パソコンは購入せずにすべて図書費に充当したものの、ほぼ計画通りの予算額を執行した。人件費も資料整理のため大学院生を研究協力者(修士学生のためRAではなくOA)としてほぼ計画通りの予算額を充当して雇用した。しかしながら、新型コロナ禍の影響でオランダに渡航しての現地調査を実施できなかったこと、参加を予定していた国際学会は延期、国内学会はすべてオンライン開催となったため、旅費の執行額がゼロとなったことから、次年度に57万円の予算を繰り越すかたちとなった。 2021年度も新型コロナ禍の影響を免れないため、使用計画を立てるのが難しいが、引き続き渡航調査を実施できない場合は最終の2022年度だけで予算残額をすべて執行することは得策ではないため、研究計画年限を超えて予算を繰り越して、本来の目的に沿った有効な予算執行に心掛けることで、研究計画を着実に実施していきたい。
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