研究課題/領域番号 |
20K06278
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久野 秀二 京都大学, 経済学研究科, 教授 (10271628)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オランダ農業 / 総合的地域食農政策 / 市民的食農イニシアチブ / アムステルダム市 / アーネム市 / エーデ市 / 市民農園 / コミュニティ農場 |
研究実績の概要 |
本研究は、地域食農ガバナンスの再編を通じた食農システム転換の可能性とその条件及び課題を、オランダを事例に明らかにすることを目的としている。具体的には、地域の消費者・生産者・事業者の政策形成過程への参加を促し、代替的食農ネットワーク構築を志向する彼らの主体的活動を支える地方自治体の地域食農政策が、中央政府の政策や主要経済主体の事業活動に及ぼす影響を考察する。さらに、地域食農ガバナンス及び代替的食農ネットワークへの参加によって地域の消費者・生産者らが地域性を超えて食農システム転換を展望し行動しうる主体的市民へと成長する可能性を考察する。 2022年度は、新型コロナ禍に伴う渡航制限等の影響で2020年度と2021年度に実施できなかった現地調査を2022年5月と2023年3月に実施した。第一に、オランダにおける総合的地域食政策の最先進事例であるエーデ市の食政策担当者及びフードカウンシル統括者へのインタビューを実施し、同市における食政策の策定経緯やガバナンス構造について知見を得た。第二に、アーネム市の都市農業政策担当者の協力を得て、市内3件の市民的食農イニシアチブ(福祉農場、市民農園、regenerative農場)を訪問調査し、さらに4名の地域食農政策関係者へのインタビューを実施した。第三に、アムステルダム市の市民的フードカウンシルを設立した二人のコーディネーターへのインタビューを実施し、同市における食政策ガバナンスの課題について知見を得た。また、二つの市民農園を訪問調査する機会を得た。これら食政策ガバナンス関係者へのインタビュー調査の結果は、2023~25年度の新たな科研費研究課題を準備するために利用した。また、アムステルダム市とアーネム市で訪問調査した市民農園の事例については、2019年にロッテルダム市で訪問調査した市民農園の事例と合わせて整理・分析し、季刊雑誌の連載記事として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題はオランダで実施する数次の現地調査を中心に構想されたものだが、関係主体へのインタビュー調査、現地資料収集、次年度以降の本調査で対象とする個別事例の選定作業を進める予定だった2020年度の研究計画、それらに基づく半構造化インタビューを本調査として実施する予定だった2021年度の研究計画を、新型コロナ禍による影響で実施できなかった。その代替措置として対象を欧州諸国に広げ、政策文書や現地メディア情報を中心とする文献調査および関係者へのズームやメールでのインタビューで実施可能な総合的地域食政策の形成過程の整理、それに関連する市民的食農イニシアチブの全体状況の把握に努め、その成果を季刊雑誌の連載論文として発表してきた。 2022年度は、第一に、前年度までに実施できなかった研究課題を当該年度の研究計画として全て盛り込むことは難しかったため、補助事業期間を2023年度に延長しつつ、同時に2023年度以降の新たな研究課題への接続を企図しながら、オランダ主要都市で展開する総合的地域食政策の到達点と課題を整理することに努めた。前年度のアムステルダム市に続き、本年度はエーデ市の総合的地域食政策の経緯とガバナンス上の課題を明らかにすることができた。第二に、インタビュー調査や文献調査を通じて、オランダ都市食政策協定を通じた都市間連携の動き、それらを通じた地方政府と中央政府との関係性について知見を得ることができた。第三に、現地調査の機会を得て、各地で展開する市民的食農イニシアチブの事例を詳細に知ることができた。 しかしながら、研究課題の一つである「地域食農ガバナンス及び代替的食農ネットワークへの参加によって地域の消費者・生産者らが地域性を超えて食農システム転換を展望し行動しうる主体的市民へと成長する可能性」の考察については、主要関係者の助言により、本補助事業期間での実施を断念した。
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今後の研究の推進方策 |
本補助事業の研究課題としては、延長期間の2023年度中に、2022年3月に調査を実施したエーデ市の事例を季刊雑誌の連載論文として整理・発表するとともに、これまで訪問調査と文献調査を合わせて実態把握に努めてきたアムステルダム市、ロッテルダム市、アーネム市、エーデ市の事例を中心に、「オランダにおける地域食農政策の展開とガバナンス上の課題」に関する学術論文を執筆する予定である。これは、2023~25年度に予定している新たな科研費補助事業「欧州諸都市における地域食政策ガバナンスの形成と展開の政治過程に関する研究」に接続するものであり、他の欧州諸都市との国際比較を行う上での「ひな形」となりうるものである。 なお、新しい研究課題の背景には、新型コロナ禍のもとでの代替措置として実施したものも含め、2021年度から続けてきた、欧州諸都市における総合的地域食農政策と市民的食農イニシアチブの動向把握(と季刊雑誌への連載)で得た問題意識がある。これまでヘント市・ルーヴェン市(ベルギー・)フランデレン地域)、コペンハーゲン市(デンマーク)、ミラノ市(イタリア)を取りあげてきたが、引き続きローマ市(イタリア)やブリストル市(英国)等を対象に作業を続ける予定である。オランダを欧州調査の拠点とするため、本事業予算も適宜組み合わせる。 こうした先進的な都市の事例が北米や欧州はもちろん、アジア地域でも徐々に生まれ始めているが、日本では点としての代替的食農イニシアチブは相応に広がっているものの、それらが面としてネットワーク化し、さらに行政を巻き込んで総合的地域食農政策へと展開するような事例が都市部ではほとんど見られない。まずは欧州諸都市の事例を比較分析しながら、日本において総合的食農政策の構築と市民的食農イニシアチブの制度化を進めるための政策課題と研究課題を析出することも見据えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題はオランダで実施する数次の現地調査を中心に構想されたものだが、関係主体へのインタビュー調査、現地資料収集、次年度以降の本調査で対象とする個別事例の選定作業を進める予定だった2020年度の研究計画、それらに基づく半構造化インタビューを本調査として実施する予定だった2021年度の研究計画を、新型コロナ禍による影響で実施できなかったため、大幅な繰越額が生じていた。2022年度は、2022年5月と2023年3月に現地調査を実施し、有意義な成果を得ることができたが、大学の国際連携教育研究プログラムの用務と兼ねたため、研究補助のため同行させた大学院生の渡航費を含めても計画より予算執行額が抑えられたため、次年度使用額が生じることとなった。2023年度は現地調査のための渡航費と研究補助に当たる大学院生の謝金に充当し、研究課題の実施と総括を進める予定である。
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