研究課題/領域番号 |
20K06282
|
研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
宮田 剛志 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (70345180)
|
研究分担者 |
萬木 孝雄 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30220536)
山本 直之 宮崎大学, 農学部, 教授 (10363574)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 畜産経営の株式市場への上場 / 畜産経営の成長と資金調達 / 資本コスト / 農外・農業関連企業の連結子会社の畜産の飼養、生産 / フリーキャッシュフローを適用した収益性評価 / 事業戦略と価値の創出の連動 / 価値の創出とその要因分解 / 国産飼料と転作作物の振興 |
研究実績の概要 |
本研究では、家畜の感染症の影響を踏まえながら、我が国の畜産部門の構造再編を牽引し成長と安定性を実現している畜産経営への経営戦略論の適用可能性に関する理論と実態の両面から検証を行うことを課題としている。次の6点の実証を試みた。 第1に、株式市場に上場しているブロイラー、採卵鶏、その他の畜産の各部門の企業経営に関して、畜産の飼養、生産等の様子について、『有価証券報告書』やその他の資料から、その整理を行った。第2に、農外・農業関連企業の連結子会社による畜産の飼養、生産等の様子に関して、『有価証券報告書』やその他の資料から、その整理を行った。そこでは、連結子会社の大規模な直営農場を含めた事業部門毎に、フリーキャッシュフローを適用し、事業価値評価が行なわれ、また、その上で、企業価値評価が行なわれることになるゆえである。第3に、養豚部門に進出している農業関連企業の連結子会社の事業規模は、既に、株式市場に上場しているブロイラー、採卵鶏、その他の畜産の各部門の企業経営の事業規模を上回っている、ないしは、同等であることから、価値が創出されていることが推察されてきた。第4に、以上の3点を踏まえると、ブロイラー、採卵鶏、養豚の各部門では、フリーキャッシュフローを適用し、畜産経営の経営成果の収益性評価を行なうことの可能性・妥当性等が推察されてくる。第5に、多くの論者に取り上げられ、分析が進められている畜産経営を分析対象とし、価値の創出とその要因分解に関しての解明を行った。分析対象とした畜産経営では、ROICが、金融機関からの借入金といった債務コストを主とした資本コストを上回っており、価値を創出していた。第6に、国産飼料が給餌されていることで、収益性が改善されるのかの分析をすすめるために、農業財政と直接支払額の観点から転作作物振興の評価を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2022年度では、次の2点において研究を進捗させた。 第1に、畜産経営の経営成果の収益性評価においてである。研究実績の概要で整理した通り、ブロイラー、採卵鶏、養豚の各部門では、フリーキャッシュフローを適用し、畜産経営の経営成果の収益性評価を行なうことの可能性・妥当性等が推察されてくる。そこで、本年度は、養豚部門において、これまで多くの論者によって取り上げられてきた、事業多角化を行っている畜産経営に焦点をあてて、価値の創出とその要因分解に関しての分析を進めた。分析対象として取り上げた畜産経営においては、ROICが、金融機関からの借入金といった債務コストを主とした資本コストを上回っており、価値を創出していた。また、ROICの水準も上昇している年度も確認された。そこでは、配合飼料価格の推移や豚肉価格の上昇といった交易条件の改善が、売上原価/売上高を低下させるバリュー・ドラーバーの1つとなっていた。加えて、分析対象の畜産経営では、養豚部門や食肉の処理、加工、卸部門において設備投資を行なうことで、フリーキャッシュフローを生み出し、債務コストを主とした資本コストで割り引いた後の現在価値も大きな数値を実現していた。 第2に、国産飼料の生産においてである。水田活用および畑作物の直接支払が対象とする13作物を対象として、2020年の作付面積、生産量、生産額を統計的に整理し(部分的には試算や推計も含む)、直接支払額に対するそれらの数値を政策的な成果指標と位置づけて、比較分析を行った。支払額1万円当たりの生産量(kg)は、直接支払額に対して各作物の生産額や生産量がどれくらい影響を受けているかの指標となる。10から26%程度に位置付く飼料用米では直接支払の制度に強く依拠しており、その補助額や対象が政策によって変更されると、大きな影響を受けることが確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者が2020年12月より「病気休暇・休職」に入ったため、研究分担者を含め研究活動を、約2年間、中断せざるおえなくなった。それゆえ、2022年度後半から再開した研究実績に基づいて、今後の研究の推進方策を示すと次のようになる。 まず、COVID-19、ウクライナ侵攻、米ドル独歩高等の下で、畜産物消費にどのような変化が生じたのかに関して、前年度に引き続き、統計的に整理がなされる。そこでは、輸入・国産畜産物の消費に、どのような変化が生じたのか、それがまた、家計、加工、外食等のどの部門で生じたのかを整理していく。このことは、また、TPP11、日EU・EPA、日米貿易協定といった「新しい国際環境」の下で、輸入される畜産物のsupply chainが、COVID-19、ウクライナ侵攻の下でも正常に機能したのかの検証ともなる。 次に、豚熱(CSF)、鳥インフルエンザの発生が落ち着いた後に、詳細な現地実態調査を繰り返し実施する予定である。その際、特に、次の2点の解明を進めていく。 第1に、成長や安定性を実現している畜産経営が、経営戦略に基づく事業展開の実践の程度に関しての分析を行なう。 第2に、第1の点を踏まえ、成長や安定性を実現している畜産経営の経営成果に関しての収益性評価が行なわれる。そこでは、収益性や財務内容に関する分析だけでなく、フリーキャッシュフローを適用したファイナンス論からも分析が行なわれ、事業価値評価や,企業価値、株主価値の算定も行なわれる。ブロイラー、採卵鶏、その他の畜産の各部門では、既に、株式市場に上場している企業経営が確認されるゆえである。その際、国産飼料の生産、流通、利用等が畜産経営の事業価値、企業価値を上昇させているのか、否かに関しても、生産調整の実態等を含め、その解明が行われる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次の2点から研究活動に大きな遅れが生じ、それに伴い使用額においても大きな繰り越しが生じた。第1に、2022年度、豚熱(CSF)と鳥インフルエンザの断続的な発生に伴い、詳細な現地実態調査を繰り返し実施することに困難が生じた。第2に、研究代表者が2020年12月より「病気休暇・休職」に入ったため、研究分担者を含め研究活動を、約2年間、中断せざるおえなくなった。それゆえ、旅費、人件費・謝金、設備備品費(農業・畜産・家畜感染症・経営関係図書等)、消耗品費等の全ての研究経費で大幅な繰り越しの必要が生じた。 研究代表者が、2022年度後半から「復職」し、加えて、豚熱(CSF)等の発生が落ち着いた後に、北海道、東北、群馬県、宮崎県、鹿児島県のブロイラー、採卵鶏、養豚、肉用牛、群馬県の養豚を中心に詳細な現地実態調査(旅費、人件費・謝金)を繰り返し行なっていく。そこでは、飼養衛生管理基準の遵守が経営計画や経営管理サイクルの活用の中で、どのように取り組まれているかに関しての現地実態調査も進めていく。同時に、詳細に繰り返される現地実態調査から、畜産経営における経営戦略論の適用とその経営成果の評価指標をファイナンス論等からも検証を行うために必要な設備備品等が購入される。その上で、理論と実態の両面から得られた研究成果を国内の学会に報告・論文投稿するための旅費等も必要とされる。
|