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2020 年度 実施状況報告書

作物の在来品種と食農文化の継承メカニズムの解明:モンスーンアジア3ヶ国の比較研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K06289
研究機関久留米大学

研究代表者

冨吉 満之  久留米大学, 経済学部, 准教授 (20506703)

研究分担者 廣田 勲  岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (50572814)
篭橋 一輝  南山大学, 国際教養学部, 准教授 (60645927)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード関係価値 / ラオス / 阿蘇高菜 / 生業 / 価値創出 / 種子保全 / 遺伝資源 / 自家採種
研究実績の概要

在来品種の栽培と利用の継続性について、先行研究レビューを踏まえて理論的な検討を行った。その結果、継続性に影響を与える指標として(A)生業型、(B)保全型、(C)価値創出型の3類型を提起した。その後、これまでに実施してきた熊本県内での調査結果を再整理し、取り組みの継続性に関する分析を行った。
その結果、熊本では地域農業の特性もあり、特に保全型の取り組みで鍵となる公的アクターの体制整備が十分ではないことが伺えた。一方、地域づくりなどの一環として在来品種を再導入する事例や、熊本市内の飲食店における高付加価値の料理として在来品種が活用されている実態がみられた。以上から、新たな主体によって価値創出型の取り組みが展開されることで、これまでの生業型や保全型における課題を解消できる可能性が示唆された。
以上と並行して、調査対象地域であるラオスの公的機関による遺伝資源保全の現状を調べると共に、現地の共同研究者に連絡しつつ情報収集を行った。次年度以降の海外調査に向けた協力体制ができつつある。
また、生態系サービスの多面的な価値を捉えるための概念として近年提起された〈関係価値(relational value)〉に注目し、一般的な価値論における〈関係価値〉の理論的な位置づけを明らかにした。更に、それらの概念を種子保全の議論に適用する可能性について検討した。
最後に、国内での現地調査(北部九州)をメンバー全員で実施した。具体的には、福岡県久留米市(山汐菜)、大分県九重町、阿蘇市(高菜)、高森町(地トウキビ・鶴の子イモ)といった地域の生産者などへの聞き取り調査を進めた。その結果、退職後の地域貢献としてJAの部会での栽培を継続、東日本大震災を契機として若者が地元へ帰還し栽培を継承、宿泊施設を経営しつつ地域内の在来品種の情報を収集し、都会に向けて発信するなど、様々な関与形態があることが分かってきた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

採択時点でCOVID-19が拡大しつつあったため、研究計画を再検討し、海外調査は次年度以降に実施することにした。一方で、コロナ対応によりオンラインでの研究会は比較的多く実施することができ、メンバー間での情報共有と議論は通常期よりも頻繁に実施できた。
国内では、これまで岐阜県で実施してきた畑地の作物の地域品種の継承に関する調査結果をまとめ論文化することができた。また、本科研に関連する山地農業やイネの品種を東南アジア大陸山地部と日本の九州山地で比較した発表も行った。更に、能登半島での自家採種の実態に関する大規模調査の結果を論文化したものが国際誌に掲載された。
また、研究実績で述べたように、国内調査で特色のある事例調査を積み上げていくことができた。

今後の研究の推進方策

引き続き、ラオスでの現地調査に向けた関係機関との情報交換を行い、早期の調査実現に向けて準備を進める。また、ラオスでの調査項目について、更なる検討を重ねる。
中国での調査については、協力者と連携してオンラインでの打ち合わせを実施する。ただし、海外調査は2021年度も難しいことが予想されるため、遠隔でのインタビューなども検討する。
国内に関しては、熊本・岐阜における調査を継続すると共に、長崎(諫早)など他地域での調査も視野にいれて準備を進める。
理論面では、引き続きレビューを進める。特にコモンズ論からのアプローチを集中的にレビューする。分析枠組みに関しては、分担メンバー3者のそれぞれの視点を踏まえて、構築を進める。
分担メンバーとの研究会に加えて、関連分野の研究者を招聘して食農環境研究会を定期的に開催する。今年度は特に、農村社会学や土壌学といった分野の研究者を検討している。以上により、より包括的な食農文化の継承メカニズムの解明に向けた分析枠組みを検討する。

次年度使用額が生じた理由

(1) COVID-19の拡大により海外調査を次年度以降に延期したこと、(2) メンバーとの研究会や学会発表も遠隔で実施されたため、国内旅費の支出が少なくて済んだことといった理由による。
使用計画については、COVID-19の状況を見ながら、次年度後半かそれ以降にラオスでの現地調査を実施する予定である。また、学会・研究会や国内調査の旅費への支出を計画している。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Evaluating plant genetic diversity maintained by local farmers and residents: A comphrehensive assessment of continuous vegetable cultivation and seed-saving activities on a regional scale in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Tomiyoshi, M. , Uchiyama , Y. and Kohsaka
    • 雑誌名

      The International Journal of Sociology of Agriculture and Food

      巻: 26(2) ページ: 111-142

    • DOI

      10.48416/ijsaf.v26i2.433

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 作物在来品種の栽培・利用の継続性に関する考察 ―熊本県内での複数の取り組みを事例として―2021

    • 著者名/発表者名
      冨吉満之
    • 雑誌名

      久留米大学経済社会研究所紀要

      巻: 7 ページ: 69-81

  • [雑誌論文] 中山間地域の自給的な農業生産・植物採取・消費の実態―岐阜県揖斐郡揖斐川町小津地区の事例―2020

    • 著者名/発表者名
      広田勲・田口裕允・宮川 修一
    • 雑誌名

      農林業問題研究

      巻: 56(2) ページ: 46-53

    • DOI

      10.7310/arfe.56.46

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 〈関係価値〉は新しい価値カテゴリなのか―手段的価値、内在的価値、代替可能性の観点から読み解く2020

    • 著者名/発表者名
      篭橋一輝
    • 雑誌名

      社会と倫理

      巻: 35 ページ: 3-20

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 生活環境から見た農民による種子調達の特性-ネパール・パンチカール市を事例として-2020

    • 著者名/発表者名
      冨吉満之・西川芳昭
    • 学会等名
      第70回地域農林経済学会
  • [学会発表] 東南アジアにおける稲作の生態2020

    • 著者名/発表者名
      広田勲
    • 学会等名
      第23回TOYAMA植物フォーラム
  • [学会発表] 人びとの暮らしと焼畑-日本文化の多様性を探る:コメント2020

    • 著者名/発表者名
      広田勲
    • 学会等名
      国立民族学博物館・五木村共済企画『佐々木高明の見た焼畑-五木村から世界へ-』公開セミナー第1回

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公開日: 2021-12-27  

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