研究課題/領域番号 |
20K06290
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
島 義史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 主席研究員 (10414781)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | スマート農業 / 農業経営者 / 水田作 / 野菜作 |
研究実績の概要 |
研究期間1年目は、研究対象とした大規模水田作経営の経営データ、農作業データを解析し、スマート農業技術(以下、スマート技術)導入前後での農作業分担の変化を調査した。あわせて農業経営者(以下、経営者)への聞き取りを通じ、スマート技術の利用意向や想定される経営管理面への影響について定性的に把握した。また、線形計画法による大規模水田作経営モデルのプロトタイプを構築し、スマート技術の導入効果として、対象経営の将来の予定を含む経営面積の変化を踏まえて、農業所得の変化や経営面積拡大の可能性を試算した。 第一に、自動運転田植機の導入を契機に非熟練従業員に田植作業が委任される等、スマート技術導入後の農作業分担や作業班編成の変更が複数の対象経営において確認された。一方で、従業員育成面でのスマート技術の利用に関する経営者の意向は、従業員規模で違いがあった。スマート技術が及ぼす作業計画や人員配置、教育といった管理面への影響は、経営規模によって相違することを示唆すると考えられた。 第二に、対象経営おける各種スマート技術の導入効果として、ロボットトラクター、収量コンバイン等を追加した場合、減価償却費の掛かり増しにより、経営面積によっては農業所得が低下するが、省力化による経営面積の拡大とあわせ、圃場別収量データに基づく品種選択や栽培管理支援システムを利用した追肥の最適化により単収向上を実現することで、目標とした農業所得が期待できるとの試算結果が得られた。さらに、対象経営は今後一層の農地集積・集約を計画しており、スマート技術を導入することによって、現有労働力でも従来面積を大きく上回る耕作が可能となることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究期間1年目は、大規模水田作経営における経営データの解析、線形計画法による経営モデルのプロトタイプ構築により、スマート技術の導入がもたらす作業分担等の変化とともに、経営規模拡大の可能性等を検討し、初年目で期待していた解析結果を得た。また、多圃場管理システムや作業日誌によって作業時間データを継続的に収集することが可能となり、データ収集の体制構築面では当初計画していた進捗が得られた。 一方で、研究期間1年目に経営者対する詳細なヒアリング調査を予定していたが、COVID-19の感染拡大を受けた移動制限のため、現地に赴いての聞き取り調査が十分に行えず、データ収集が停滞した。研究概要に示す結果の他、ヒアリングデータに基にした定性分析により、スマート技術導入後の経過年数等で比較を行い、経営者機能の発揮のされ方の違いを析出することを見込んでいたが、限られた時間、回数での聞き取りによる概略整理にとどまった。 以上、全体的に研究計画沿う課題進捗がなされた中で、一部当初計画していた調査、解析が実施できなかったことから、上記進捗状況とした。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間2年目は、経営者への聞き取りによる定性的な評価に加え、多圃場管理システム等に蓄積された農作業時間等の分析によって、同一経営の時系列分析や複数経営の横断面分析を通じて、スマート技術による経営者機能の発揮のされ方の変化や違いを析出する。スマート技術によって、従来外部化していた経営者機能を内部化、反対に内部化していた経営者機能を外部化とするといった変化の把握も試み、スマート技術を通じた経営者機能の拡大や重点化の実態解明を図る。あわせて研究期間1年目で得た大規模水田作経営モデルのプロトタイプを精緻化し、作業分担の変更を反映した経営モデルの修正版を策定する。 また、野菜作経営(新規参入者含む)を対象に追加し、スマート技術と経営管理領域・項目への対応について調査する。特に野菜作新規参入者については、参入時からスマート技術を活用した経営とそうでない経営を比較し、経営者機能の発揮のされ方の違いを析出する。スマート技術の導入が広範な経営者機能の発揮につながるかどうかを分析するとともに、経営成果の比較からスマート技術導入有無での経営成果の差異の有無を検討する。 上記計画の推進にあたっては、COVID-19の感染拡大を受けた移動制限への対応が課題となる。移動制限の状況により調査の実施可否、時期、規模を決定することとするが、特に遠隔地への移動が制約されることから、場合によって分析対象を適宜変更して課題推進にあたる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究期間1年目にスマート農業を実践する農業経営者対する詳細なヒアリング調査を予定していたが、COVID-19の感染拡大を受けた移動制限のため、計画していた現地に赴いてのヒアリング調査が十分に行えなかった。研究機関2年目以降、当初計画では研究対象を水田作経営に野菜作経営を追加するとともに、広域(北海道、関東、四国)でのデータ収集を予定しており、次年度使用額は調査旅費に充てる計画である。
|