研究課題/領域番号 |
20K06312
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
松嶋 卯月 岩手大学, 農学部, 准教授 (70315464)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | hydraulic lift / 毛管上昇 / 根の生理的活性 |
研究実績の概要 |
培地内における湛水の毛管上昇を排除した条件で,根周辺の培地の水分や塩濃度などの変化を観察することで,根のhydraulic lift現象は養液中成分を栽培土壌へ移動させるかを調査した.最下層から最上層へ含水率は直線的に減少し,含水率は対照区と処理区との間に顕著な差は見られなかった.Na濃度は,塩水1%区,2%区では5層すべてからNaが検出され,毛管上昇を排除したhydraulic liftでも塩は培地に移動することが明らかになった.また,培地最上部の1層,最下部の5層が高い傾向を示した.培地最上部でNaが高い傾向を示したのは,培地内水分の毛管上昇により培地表面に塩類が集積したためだと考えられる.しかし,Na濃度が高い最上層でもNa濃度は0.5%程度で,根に供給した2%塩水より低い値となった.すなわち,培地に供給される水の塩濃度は根に供給された塩水の塩濃度から大きな影響を受けていないと考えられる.また,塩水1%区,2%区におけるNa濃度の垂直分布には顕著な差は見られなかった.このことから根は与えられた塩水をそのままの濃度で吸水しなかった,あるいは,hydraulic liftで再配分される塩は制限されたと推測される.培地の中の根量は対照区に比べ処理区は顕著に少なく,培地上部ほど根量は多く下層に行くにつれ減少した.含水率の垂直分布に対照区と処理区で差がないことから,処理区の根は対照区に比べより多くの水を培地に供給したと考えられる.また,Na濃度が高いほど酸素消費量が低くなり,呼吸が抑制され生理活性が低下する傾向が見られた.ここで,培地垂直方向中央の第3層に注目すると,処理区,対照区とも他の層と比較し酸素消費量が多かった.この層が示す高い生理的活性はhydraulic liftで生じる培地の水分環境と根系の発達と関係があると予想され,今後,根の形状調査を含めた調査が必要であろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,2020年度から2022 年度の3年間で,「植物の根は高濃度塩水湛水栽培にどのように順化するのか?」を明らかにすることを目的としている.まず,課題1. 順化から機能分化に至る過程で,根にどのような変化が起きているか?については,また,Na濃度が高いほど酸素消費量が低くなり,呼吸が抑制され生理活性が低下する傾向が確認された.また,根の形態変化を解明するために必要である,より効率的な根の洗い出し手法および画像処理解析法について開発を行った.課題2.hydraulic lift によって,乾燥域に水や塩がどのように運ばれるか?については,hydraulic liftで再配分される塩は制限されることが明らかになった.また,乾燥域に運ばれる水の分布を計測するために,線熱源法による熱伝導率計測を応用した水分計測プローブがもみ殻培地の水分計測にも適用可能かどうかについて調査を行い,良好な結果を得た.以上より,課題1,課題2とも概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,2020年度から2022 年度の3年間で,「植物の根は高濃度塩水湛水栽培にどのように順化するのか?」を明らかにすることを目的としている.まず,課題1. 順化から機能分化に至る過程で,根にどのような変化が起きているか?については,浸潤域および乾燥域の根における呼吸速度を比較することで,呼吸機能について 差異の有無を明らかにする.培地中の二酸化炭素濃度については,気体採取器と CO2 検知管で経時的に測定を行う.また,2020年度に開発した画像処理解析法を用いて,順化過程で根の構造がどのように変化するのかについて調査を行う.課題2.hydraulic lift によって,乾燥域に水や塩がどのように運ばれるか?については,線熱源法による熱伝導率計測を応用した水分計測プローブを用いて水分布の計測を行う.
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