研究課題/領域番号 |
20K06321
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉田 弦 神戸大学, 農学研究科, 助教 (60729789)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嫌気性MBR / 乳牛糞尿 / 液体畜産バイオマス / 消化液改質 / 微細藻類 / 膜分離 |
研究実績の概要 |
本研究では、エネルギ回収技術であるメタン発酵の酪農での導入の課題となっている、発酵設備の巨大さと消化液利用を解決するために、嫌気性膜分離プロセス(嫌気性MBR)を構築することを目的とした。また、藻類培養に直接利用できるような改質された消化液を回収することを目指した。そのために、実験室規模の嫌気性リアクタを用いて精密ろ過膜や遠心分離を用いた固液分離型のメタン発酵試験を実施した。前年度では、リアクタにおける水理学的滞留時間(HRT)を短縮すると、バイオガス収率が顕著に低下する傾向が見られた。本年度では菌体の馴養を行いながら運転をすることで、収率の低下を抑制することができた。バイオガス生成速度で評価すると、水理学的滞留時間の短縮に伴い生成速度は向上した。このことから、嫌気性MBRなどの固液分離の導入により、液体畜産バイオマスのメタン発酵を高速化できる可能性が示された。嫌気性MBR消化液を利用した微細藻類の培養試験を引き続き実施した。リンの添加の有無の影響を評価したとこと、リンの添加に関わらず微細藻類の成長特性は同等であった。このことから嫌気性MBR消化液は栄養塩を添加することなく、直接利用できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体畜産バイオマスを基質とした嫌気性MBRの構築に向けて、酪農廃水を対象とした運転を実施した。水理学的滞留時間(HRT)を20日、10日、5日と短縮させて運転を実施したところ、20日と10日でいずれも0.33 m3/kg-VSとなり、分離を行わない場合と比較して同等であった。HRTが5日の際はバイオガス収率は0.24 m3/kg-VSとなった。一方でバイオガス生成速度は、水理学的滞留時間の短縮に伴い増加し、HRT5日の場合は1.74 m3/m3/dayとなりHRT20日と比較して約3倍の値となった。また、酪農施設などの現地での適用を考慮して膜ろ過以外の分離機構も検討したところ、遠心分離程度の粗いろ過でも膜ろ過と同様の発酵性能を示すことがわかった。以上より、嫌気性MBRなどの固液分離プロセスにより、液体畜産バイオマスのメタン発酵の処理時間を短縮できる可能性が示された。 嫌気性MBRより得られた消化液を用いて微細藻類Nannochloropsis oculataの培養を行った。膜ろ過によりリン濃度が低減する可能性があったため、消化液にリンを添加した試験も実施した。市販培地、嫌気性MBR消化液、嫌気性MBR消化液+リン添加、の3種類で比較を行ったところ、最大細胞密度や最大比増殖速度などに大きな差はなく、リンを添加しなかった嫌気性MBR消化液において最も大きい0.951 day-1の比増殖速度が得られた。このことから嫌気性MBRは藻類培養に適した消化液を生成しうる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
嫌気性MBRにおいて、バイオガス収率を低下させることなく、バイオガス生成速度を高めながらHRTを短縮できるような運転方法が概ね確立された。今後は、高負荷運転時におけるファウリング発生について、その機構と抑制方法を検討する予定である。予算の関係上、現地試験は困難ではあるが、ラボスケールでの専用の膜モジュールの試作に既に着手しており、運転試験を行う予定である。 また、藻類の利用可能性においては、前年度使用した海産藻類以外にも淡水性の微細藻類を対象とした培養を行う。成長特性を評価するとともに、窒素やリンの利用効率も調査する。これにより嫌気性MBR消化液の機能性について、普遍的な価値を示す。 さらに最終年度としてプロセス全体の物質収支やエネルギ収支などを評価して、畜産分野での嫌気性MBRプロセス構築に寄与しうる知見の獲得を目指す。
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