本研究の目的は、熟練作業者に蓄積される機械作業における操作、作業状況の良否判断等の経験知・暗黙知のデータ化とスマート農業への有効利用を図るため、「実作業環境下において農業機械から計測される時系列データから作業状態・精度の把握および作業者の運転・操作パターンの特徴抽出とその数値化」を行うことである。一般的に熟練作業者ほど圃場の土壌や作物の状態、機械から伝わる振動・騒音および作業の仕上がり具合などの情報から作業状態を総合的に判断して操作を行っており、経験年数・習熟度の違いがエンジン回転数や走行速度、作業機の制御にどのような差異が生じるのか、熟練作業者はどのような作業情報から作業状態の良否を判断してるのかを明らかにする必要がある。
昨年度はトラクタのロータリ耕うん作業を対象に、異なるトラクタの作業条件および圃場条件での機体の並進3軸加速度の合成加速度データを用いた機械学習により、設定した作業・圃場条件の分類を試みた。その結果、機体側と作業機側の2ヵ所の慣性データを用いることで、異なる土壌条件とトラクタの操作条件を組み合わせた16の作業条件を、95.5 %の精度で判別することができた。
最終年度では、乗用トラクタに加え、歩行トラクタや収穫機械を用いて作業中の振動時系列データの収集を行った。収穫機械では刈取、搬送、選別部等の複数の駆動部位を有するため、作業状態・情報を把握するために適切なセンサーの数、取付位置を検討した。その結果、各駆動部位に起因する周波数成分が最も多く含まれる振動時系列が計測される部位は、剛性が高いトラックフレーム部であることを明らかにした。 さらに、収穫における作業状態の把握には、振動時系列データを入力とした学習モデルより、複数時系列データ間の相関構造を入力とした学習モデルにおいて判別精度が高い結果となった。
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