研究材料であるノシメマダラメイガを5カ国で採集することは、コロナウイルスの全世界的な蔓延により断念せざるを得なかった。そこで、日本国内におけるノシメマダラメイガのDNA多型を明らかにするため、各地で採集を試みた。具体的には、北海・東北地方で1地点、関東地方で8地点、北信越地方で5地点、中部地方で6地点、関西地方で6地点、四国地方で4地点、九州・沖縄地方で4地点の計34地点とした。採集には、ノシメマダラメイガを確実、かつ効率的に入手するため、メスの性フェロモンによるトラップを用いた。これら34地点で得られたオスのノシメマダラメイガ成虫からDNAを回収し、DNAによる種判別で世界的に用いられているチトクロムcオキシダーゼサブユニットI(COI)遺伝子および16S リボソームRNA(16S)遺伝子の配列をそれぞれ解読し、塩基配列情報を比較した。解析の結果、COIおよび16S遺伝子においてそれぞれ特徴的な変異が見出されているが、取り纏めに際しては採集地点毎の標本数を増やす等、データの信頼性向上を目的とした追加検証を行う必要がある。 ノシメマダラメイガからの効率的なミトコンドリア(mt)DNAの単離法については、市販キットで抽出したTotal DNAを0.5%のアガロースゲルによる電気泳動で分離後、mtDNAを含むゲル画分のみを切り出し、市販のDNA精製キットで回収する手法を開発した。本法は、分子生物学実験の基本実験に沿ったルーチン操作で実施でき、得られたmtDNAは収量が良好、かつ高純度に調製可能であった。最終年度には、ゲル強度の極めて高いパルスフィールド電気泳動専用のアガロースを用いて操作性の向上を検討した。当該アガロースでは、比較的安価な一般的な電気泳動用のアガロースゲルと比して高分子域の分離が良く、ゲルの扱いは強度の向上により若干改善が認められた。
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