研究課題/領域番号 |
20K06339
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉川 正人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80313287)
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研究分担者 |
戸田 浩人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00237091)
崔 東壽 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20451982)
星野 義延 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00143636) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植生管理 / 群落移植 / 土壌の理化学性 / 雑木林の更新 |
研究実績の概要 |
一般に里山の雑木林といわれる夏緑広葉樹二次林は、生物多様性の保全上きわめて重要性が高いことが認識されているが、バイオマス資源としての需要が低下した現在、どのように効果的な管理を行うかが大きな課題となっている。とくに都市近郊においては、市民団体等によって保全活動が行われることが多いが、従来の資源利用と切り離された管理は必ずしも効果をあげていない。その原因として、伐採や下草刈りによる林内の光環境の維持にのみ焦点が置かれ、資源利用にともなうバイオマスの持ち出しの影響が重視されてこなかったことが考えられる。 そのため本研究では、伝統的な薪炭材や落葉の採取が、土壌と植生との間の養分動態や、土壌を通した植物の生育環境にどのような効果を与えていたのかに着目し、雑木林の植生と土壌の相互関係に基づいた合理的かつ効率的な植生復元手法を提案することを目的とする。具体的には、①下草刈り発生材の処理方法による土壌への養分供給と林床植生への影響を明らかにするとともに、②下草刈り発生材やリターを活用した林床植生復元手法の開発を行う。 計画初年度は,主たる調査地とした都立浅間山公園の雑木林において,4年前に皆伐が行われた場所と択伐が行われた場所に設置した固定調査区において,季節ごとの植生調査と土壌理化学性の調査を実施した。皆伐地と択伐地では林床植生に大きな違いがみられ,皆伐地では先駆低木や一年生草本の繁茂が目立った一方,皆伐地では大きな種組成の変化はみられなかった。いずれの調査区でも復元目標とする,雑木林本来の種組成には回復しておらず,光環境の改善だけでは群落の復元は困難であることを確認した。そのうえで,この既存の調査区を対象として,刈草とリターの移植による群落移植実験に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では野外操作実験の手法を取り入れており,初年度は主に実験処理開始前の状態を記録するための調査を行った。都立浅間山公園の約50年生のコナラ二次林において,4年前に皆伐および択伐された区域に調査区を設定し,植生調査と土壌調査を行った。皆伐区と択伐区では林床の光環境が異なるため,伐採後の林床植生の変化には大きな違いがみられた。皆伐区では,毎夏の下草刈りにもかかわらず先駆性低木や一年生草本が繁茂が続いていた。一方,択伐区ではリターの蓄積量が多く,林床生草本の生育はわずかであった。いずれも復元目標とする雑木林の林床植生の構成種には乏しく,伐採による光環境の改善だけでは群落の再生が困難であることが裏づけられた。 そこで,次の段階として群落移植実験に着手した。伐採後に追跡調査を行ってきた既存の調査区を移植先区(レシピエントサイト)とし,良好な林床植生が残されている移植元区(ドナーサイト)から,種子がついた刈草およびリターを採取して移植した。移植先での群落復元効果を検証するために,対照区(コントロール)も設置した。移植に先立って移植元区と対照区においても植生調査を行い,移植先との比較を行うための初期データを取得した。 また,関連する研究として,伐採後のコナラを主とする樹木の萌芽枝成長過程について調査を行った。本調査地では,高齢化した雑木林を高い位置で伐採しているため,この「高伐り」が萌芽率の向上に寄与しているかどうかを検討した。さらに萌芽特性が強く雑木林への侵入拡大も懸念されるハリエンジュについて,陽葉と陰葉における窒素濃度などの分析を行い,ハリエンジュが陽葉と陰葉の窒素配分の面から環境変化への適応力について検討した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,群落移植実験に関する追跡調査と,下草刈りによる発生材(刈草)が土壌に与える影響の調査を中心に研究を行う。 刈草とリターを移植した移植先区において,春と秋に林床植生調査と土壌理化学性の調査を行い,対照区と比較して移植1年目に生じた植生と土壌の変化を明らかにする。また,移植元区については,移植用の刈草やリターの採取が植生や土壌にどのような影響を与えたかについて,対照区との比較から明らかにする。また,移植に用いた刈草とリターに含まれる植物種子等の散布体の組成と量を調べるため,採取した刈草とリターの一部を用いた発芽試験を行う。発芽試験はハウス内で行う野外での試験と,研室内のインキュベーターを用いて温度管理下で行う試験の2通りを実施する。これにより,移植先区で新たに出現した植物が,移植元区の刈草やリターに由来するものであるかどうかを確かめる。 さらに,林床管理が土壌に与える影響を知るため,刈り取った草の残置や,刈草の移植による土壌理化学性の変化を調べる。上記とは別の調査区を設定し,夏及び冬に草刈りをおこなって,その草を林内に残置し,リターバック法により分解速度を調査する。また,草刈り前後に採取した土壌中の可給体窒素量,C/N比などを計測する.これらの結果から,採取した有機物を林外に持ち出さないことによる森林土壌への影響を検討する。
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