研究課題/領域番号 |
20K06342
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 照悟 京都大学, 理学研究科, 助教 (60632586)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光周性 / 環境応答 / 概日時計 / 休眠 / ウキクサ / バイオマス |
研究実績の概要 |
現在使用されている耕作地以外の場所での、食料生産と競合しないバイオマス植物の増産は、完全循環型社会の形成の実現に必要不可欠な課題である。ウキクサ植物は通常生育時には高タンパク質含有(乾燥重量の約40%)で家畜・魚の飼料として利用されている。世界中に広く分布するウキクサ植物は、属・種によって様々な光周性応答を示す。比較的高緯度地方の世界中に分布するキタグニコウキクサのL.t.6619株では短日依存的に休眠を誘導し、休眠芽を発達させることで生育に不適切な環境下を休眠状態でやり過ごす生存戦略を発達させている。休眠誘導時にはデンプンを体内に高蓄積させるため、デンプンを利用した加工しやすいバイオマスエネルギー生産への応用が期待できる。 本年度は、休眠時に発現誘導され、休眠芽の発達に関与すると予想される転写因子群の機能解析のため、着目因子の化合物による遺伝子誘導が可能な形質転換キタグニコウキクサ植物体を作出し解析を行った。また、光周性休眠応答性を示さないムラサキコウキクサにおける着目因子の過剰発現形質転換植物体の作出も開始した。更に休眠誘導時の遺伝子発現制御機構と概日時計との関連を明らかにするための詳細なRNAseq解析のためにlasyseq法の導入を試みた。今後、lasyseqの結果の解析をもとに休眠誘導の有無のサンプル間、休眠誘導応答性の有無のクローン株間の比較解析することで、候補遺伝子の分子機能解析をすすめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から引き続いて、光周期に依存した休眠誘導、並びに各種ストレス時の休眠誘導時の網羅的遺伝子発現解析を進め、休眠芽の発達を制御する遺伝子の候補を抽出し、キタグニコウキクサにおいて、化合物(Estradiol)による発現誘導系を用いて一過的に過剰発現させる安定形質転換植物体を複数ライン取得し解析を進めた。発現誘導後に候補遺伝子の誘導と連動して休眠様の表現型、老化の表現型が観察された。キタグニコウキクサ6619株の全ゲノムシーケンス解析と他2種のゲノム再シーケンシング解析が進められ、遺伝子アノテーションv2.1.1bが終了し、種内の多型解析もスタートした。これまで休眠誘導は短日条件21日間で行ってきたが、休眠形態(休眠芽)を発達させる前のごく初期の発現変動を捉えるために新たに休眠誘導後、7、14日目の植物個体を用意し、時系遺伝子発現解析を進めることができた。これらのことから、順調に研究計画が進捗していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
休眠誘導及び休眠芽の発達過程を制御していると考えられる複数の転写因子群のシグナル伝達様式を明らかにしていく。遺伝子発現変動に加え、内在性植物ホルモン変動定量的に解析することで、休眠誘導の分子メカニズムの理解を深める。次年度は、Lasyseq解析には、光周期依存の休眠応答性が異なるキタグニコウキクサ3株のゲノム情報と光周性依存の休眠誘導を起こさないコウキクサを比較対象に加えたので、休眠誘導によるデンプン合成までの過程を分子レベルで解析する予定である。これらの情報をもとに日長依存的な休眠誘導と、デンプン合成のスイッチを突き止めることで、休眠芽誘導によるデンプン系バイオマス生産性向上を達成できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
キタグニコウキクサ種内の複数株のゲノム再解析、多型解析及び休眠誘導時の発現変動解析を共同研究により安価に行った結果経費を節約できた。これらを、さらなる詳細なRNAseq解析用、植物ホルモンの定量解析に当てる予定である。
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