研究課題/領域番号 |
20K06350
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
遠藤 良輔 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (10409146)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メタン発酵 / 生物環境調節 / 微細藻類 / タンパク質 / 資源循環 |
研究実績の概要 |
本研究では,メタン発酵技術・生物酸化技術・微細藻類培養技術を組み合わせた,有機性廃棄物からのタンパク質生産技術の確立を目的として,メタン発酵消化液を改質した培養液を用いて微細藻類スピルリナを培養し,含有成分のタンパク質を回収する。このとき,生物酸化による改質あるいは培養環境の制御が,有機性廃棄物からのタンパク質資源転換効率の向上に及ぼす寄与について明らかにする。これらの知見を用いて,有機性廃棄物の資源循環効率を最大化させられるような資源循環的生産システムのありかたについて検討する。 当該年度では,メタン発酵消化液に由来する培養液に含まれる無機態窒素の形態ならびに無機態炭素源の供給方法がスピルリナの増殖速度に及ぼす影響について検討した。無機態窒素の形態はアンモニウム態または硝酸態とし,アンモニウム態窒素のみを有するメタン発酵消化液を濾過して得た培養液と,メタン発酵消化液中のアンモニウム態窒素を生物酸化によって硝酸態窒素に転換した後に濾過して得た培養液とでスピルリナの培養実験を行った。また,培養液中への炭素源の供給方法の影響として,炭酸水素ナトリウムの添加ならびに400ppm程度の二酸化炭素を含む標準空気の通気を組み合わせて調べた。この結果,スピルリナの増殖速度は,硝酸態窒素を含む生物酸化した培養液に,炭酸水素ナトリウムを添加してかつ空気を通気した条件で最大となることがわかった。培養液に含まれる無機態窒素がアンモニウム態のみの場合,スピルリナは実験期間中に死滅した。スピルリナの生育pHは9~11と高く,これにより高濃度のアンモニウム態窒素の一部から毒性の高い溶存アンモニアが生成してスピルリナに作用したことが,死滅の一因として考えられた。炭素源として供給した炭酸水素ナトリウムは,重炭酸イオンを介した培養液pHの緩衝効果も有しており,安定的な培養にあたって有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進んでいる。特にメタン発酵・生物酸化ならびにろ過を介した培養液のベース作りのプロセス構築は計画よりも良好に進んでおり,実験の遂行に支障はない。一方で,培養液中の鉄などの金属成分の不足が,スピルリナの増殖速度を律速する要因となっている可能性がいくつかの予備実験から示唆された。これは原料としている有機性廃棄物に元々含まれる金属成分量が低いからだけでは必ずしもなく,スピルリナが生育する高pH環境において,培養液中の多価の金属イオンが沈殿物を形成してしまい,スピルリナに吸収されにくくなっていることが一因として考えられた。当該年度の実験では,培養で不足すると考えられた成分は試薬等を添加することで賄ったが,廃棄物中に元々含まれる金属成分を用いてスピルリナを培養できた方が資源再生の観点からも当然好ましい。そのため,次年度以降には,高いpH環境における金属の利用可能性の観点も含めて検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通りに,スピルリナを収穫して乾物増加量・成分組成を測定する。原料となる有機性廃棄物や,中間ユニットについても同様に成分組成を測定することでプロセス全体における物質収支を明らかにする。この収支には,培養液中の金属イオンの存在量が影響すると予想されるので,金属形態の転換に関する追加実験ならびに先行研究の調査から影響についての解析をすすめ,廃棄物がどのくらいタンパク質に転換されたか,さらには廃棄物中の元素がどのくらい最終生産物に転換されたかを示す資源転換効率を明らかにする。加えて,スピルリナ培養の物質収支データと,申請者が既に過去に求めたレタスやトマトの物質収支データから,資源転換効率に関するメタン発酵資源循環生産モデルを構築する。これにより,原料となる有機性廃棄物に含まれる元素組成の資源転換効率を最大化させる,植物生産量とタンパク質生産量の比率について,様々な有機性廃棄物を対象にシミュレートする。
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