研究課題/領域番号 |
20K06352
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鈴木 智順 東京理科大学, 理工学部教養, 教授 (50256666)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光触媒 / ダイヤモンド電極 / 汚水処理 / 殺菌 / 細菌叢解析 / トリハロメタン / 有効遊離塩素 / 低環境負荷 |
研究実績の概要 |
本研究は光触媒二酸化チタンとホウ素をドープしたダイヤモンド電極(BDD電極)を併用した生物学的汚水処理水の低環境負荷な酸化剤生成槽の構築を目的としている。今年度は当研究室で運用している循環型汚水浄化槽で生物学的処理を行った処理水を本併用処理槽で以下の項目を実施した。 有機物分解に関して、光触媒処理で64%、BDD電極処理で20%が分解されたが、併用処理では80%が分解され、併用処理についての有効性が示された。 MinIONによる細菌叢解析では、生物学的処理水にはMarinospirillum属細菌が37%を占めていたが、併用処理により大幅に減少し、Bacillus属およびEnterococcus属細菌が耐性菌として検出された。 Bacillus属細菌が耐性を示した要因が芽胞であると考え、Bacillus subtilis芽胞に対して殺菌評価を実施した。BDD電極処理は99.5%、併用処理は99.99%の芽胞を殺菌したが、完全には殺菌できなかった。 併用処理による有機物分解と殺菌のメカニズム解明を目的として、オゾン、ヒドロキシラジカル、および塩化物イオン存在下で生成する有効遊離塩素の定量を行った。オゾンの生成はBDD電極処理と併用処理を比較すると、有意な差はみられなかった。ヒドロキシラジカルの生成は、BDD電極処理+光触媒処理のヒドロキシラジカル生成量と比較して、併用処理では1.2倍に増加した。有効遊離塩素の生成はBDD電極処理と比較して、併用処理で減少が確認され、これは有効遊離塩素が光触媒によって他の塩素化合物に変化したことと、有効遊離塩素によるヒドロキシラジカルの生成が考えられた。 トリハロメタンの生成要因である有効遊離塩素が減少し、酸化力の高い物質が光触媒によって生成されたことから、低環境負荷な酸化剤生成槽の構築ができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点での酸化剤生成槽では、生物学的汚水処理水の残存有機物は24 hで80%分解されたことが示され、細菌叢解析から、耐性菌としてBacillus属およびEnterococcus属細菌が検出された。これらの耐性菌のうちBacillus属細菌は併用処理24 hで99.99%が殺菌され、併用処理により殺菌性能が向上したことが確認された。併用処理により有機物分解や殺菌が向上する要因は不明であったが、有効遊離塩素の生成を定量すると、有効遊離塩素は光触媒反応により減少していることが確認された。 残存有機物の分解評価に関しては、併用処理で80%の有機物が分解されて光触媒とBDD電極併用の有効性が示せた点、また、高い有機物分解率を確認できた点が今年度の目的を達成できたものであった。細菌叢解析に関しては、併用処理により殺菌されやすい細菌と、耐性を示す細菌を特定でき、本研究を計画通りに進めることができたと考えた。耐性菌に対する殺菌性能評価に関しては、併用処理では、99.99%以上の芽胞が不活化し、光触媒とBDD電極を併用処理することによって殺菌効率が向上することが示された。Bacillus属細菌の芽胞は、物理化学的ストレスに非常に強いが、併用処理により殺菌効率が向上した点から、更なる研究で芽胞形成菌さえも殺菌できる酸化剤生成槽の構築を目指したいと考えている。併用処理による有機物分解と殺菌のメカニズムは不明であったため、BDD電極で主に発生するオゾン、ヒドロキシラジカル、有効遊離塩素の3種類について定量を行ったところ、トリハロメタンの生成要因である有効遊離塩素が減少し、酸化力の高い物質が光触媒によって生成されている可能性が示唆された。この結果は今後の研究を遂行するにあたり重要なキーポイントとなる。
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今後の研究の推進方策 |
現段階の酸化剤生成槽では、80%の有機物分解能および耐性菌であるBacillus属細菌が形成する芽胞に対する殺菌効率が99.99%を示しているが、より効率の良い酸化剤生成槽を構築するための改善点はいくつか存在する。まず、Bacillus属細菌の芽胞に対する殺菌に関して、この殺菌性能は併用処理24 hで達成されたものである。水質汚濁の指標として用いられる大腸菌に対しては、併用処理1 hで99.99999%程度の殺菌効率が得られている。これはBacillus属細菌の芽胞に対する殺菌効率と大きな差であり、改善すべき点であると考える。したがって、殺菌効率を上昇させるためにBDD電極の電圧・電流条件および光触媒に照射する紫外線の波長・強度条件などを検討していきたいと考えている。また、耐性菌として検出されたEnterococcus属細菌に対しても殺菌性能評価を実施する予定である。次に、本研究において実施するべき計画である環境汚染物質トリハロメタンの定量が挙げられる。殺菌効率および有機物分解能が向上したとしても、環境汚染物質の生成が促進されていた場合、環境に負荷をかけない浄化システムであるとは言えない。したがって、環境汚染物質の生成量を基準として、有機物分解能および殺菌効率の向上のための条件検討を実施していきたいと考えている。また、本研究において有効遊離塩素が光触媒反応によって減少する可能性が示唆された。光触媒反応によって有効遊離塩素はどのように変化するのか、なぜ併用処理によって有機物分解能, 殺菌効率が上昇したのか、そして、併用処理システムにおいて、有機物分解や殺菌効率の向上をもたらす大きな要因の調査なども殺菌メカニズムを解明するために重要な課題であり、今後実施していくべき研究項目であると考える。
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