研究課題/領域番号 |
20K06353
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
加瀬 ちひろ 麻布大学, 獣医学部, 講師 (60738772)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 新奇物反応 / 警戒行動 / 探査行動 / 野生動物管理 / 行動の種差 / 個体の特性 |
研究実績の概要 |
本研究は野生動物の個体管理への応用を目指し、動物種により視覚刺激が警戒行動にどの程度の影響を与えるか行動的に定量化することを目的としている。令和2年度は、野生下の中〜大型哺乳類6種(ニホンジカ、イノシシ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、アライグマ)を対象に、新奇物に対する警戒行動の種差・同種内の個体差を明らかにするため、8月から12月にかけて神奈川県内20地点にて調査を実施した。1地点あたり2台の自動撮影カメラ(Browning 2019ストライクプロX)を設置し、自動撮影カメラに対する馴致期間を2週間設けたのち、新奇物を設置しないベースライン期を2週間、新奇物提示期を2週間提示し、撮影された動画から新奇物に対する警戒行動を定量化した。新奇物は通常野生動物が経験することのなり材質、直線的な形状、色彩であることを考慮し、高さ30 cmのプラスチック製青色カラーコーンを用いた。 調査の結果、6種の総出没回数はベースライン期463回、新奇物提示期344回であった。新奇物に対する行動に関しては、ニホンジカ28頭、イノシシ24頭、タヌキ23頭、ハクビシン7頭、アナグマ6頭、アライグマ1頭からデータが得られた。新奇物に対して最初に反応を示した距離は動物種によって異なり、シカは1 m以上離れた場所の反応性が高かった。新奇物に対する意図的接近はタヌキがもっとも多く、次いでイノシシ、ハクビシンの順となった。一方でイノシシは70%以上の個体が逃避をした。新奇物に対する探査行動については、動物種により視覚的探査、嗅覚的探査、接触を伴う物理的探査の発現割合が異なり、警戒・探査行動の種差が明らかとなった。同種内における行動の性差についても得られたデータから解析を進めることで、動物種や個体の特性と警戒行動の関係性について概観できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緊急事態宣言の影響により調査の開始が遅れたが、当初の計画通り20地点での調査を実施でき、ニホンジカ、イノシシ、タヌキについては20個体以上のデータを得られた。一方で、ハクビシン、アナグマ、アライグマについては十分な個体数のデータが取得できなかったことや、調査地点間の距離を離して設定することが現実的に難しく調整する必要があったため。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度、令和4年度は、新奇物の視覚刺激のうち、大きさ、形状、色、動きの4つの要素に注目し、それぞれの要素が野生動物の警戒行動に及ぼす影響を定量化する。令和2年度に調査対象としたニホンジカ、イノシシ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、アライグマのうち、イノシシに関してはすでに予備実験として、動きの有無が警戒行動に及ぼす影響について検討を行った。今後は特に個体管理が重要であると考えられているイノシシ、ニホンジカ、ハクビシンの3種を対象に、飼育下での実験を予定していたが、実験実施予定の施設にて豚熱対策等の目的で実験用のイノシシ・ハクビシンが処分されたため、実験実施が可能な施設の検討が必要である。また、令和2年度の調査ではハクビシンは十分なデータ数を得られなかったことから、実験対象種をニホンジカ、イノシシ、タヌキに変更し、視覚刺激が警戒行動に及ぼす影響とその種差について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実施に必要な物品の購入や旅費などの支出は十分に実施されたが、野外調査の移動手段として自動車を使用したため、移動ルートの柔軟な変更により残金が生じた。
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