最終年度はこれまでに得たデータの解析と論文の執筆を行なった。年度末までの投稿は叶わなかったが、令和5年度より新たに基盤Cにより進めている研究課題とも合わせて成果を発表する予定である。本研究課題では、野生動物の警戒行動を増減させる要因として、対象物の視覚刺激に着目し、野生下および飼育下での実験データを収集した。野生下の個体を対象とした実験では、ニホンジカ、イノシシ、タヌキ、アナグマ、ハクビシン、アライグマのデータを収集することができ、種による警戒行動の様式の違いや、同種内での個体差(バリエーションの幅)について明らかにすることができた。飼育下の個体を対象とした実験では、実験地として想定していた施設の閉鎖により、新たに動物飼育施設を立ち上げる必要が生じた。飼育施設の準備に加え実験に用いる動物を学術捕獲し、飼育を開始するところからスタートしたため、当初の計画よりも大幅に進行が遅れた。また、当初予定していた対象動物(イノシシ、ニホンジカ、ハクビシン)の飼育が叶わず、実験を実施できなかった。しかし、アナグマを用いた飼育下での実験を実施でき、対象物の動きの有無が警戒行動に及ぼす影響を明らかにできた。その結果、過去に実施した飼育下でのイノシシを対象とした同様の実験と比べると、アナグマは動きの有無に関わらず新奇物に対する警戒行動がほとんど見られず、動きのない新奇物に対しては齧る行動も発現した。野生下での実験では、イノシシはほとんどの場合、新奇物に対して明確な警戒反応(緊張を伴う探査など)を示すのに対し、アナグマは明確な反応を示さない個体が多く、新奇物に気付いていない可能性が考えられたが、飼育下の実験結果を踏まえると、アナグマは新奇物に対する警戒反応が低いことが明らかになった。
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