研究課題/領域番号 |
20K06360
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 幹 東北大学, 農学研究科, 教授 (20250730)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 採卵鶏 / リポ蛋白 / 暑熱 |
研究実績の概要 |
採卵鶏の卵生産は、暑熱環境下で低下するとされていたが、近年の採卵鶏は体重や卵重は減少するものの、産卵率は低下しない、あるいは低下しにくいことが知られている。本研究では、この産卵率維持機構、すなわち、暑熱によりエネルギー摂取が低下した状態における産卵補償機構をニワトリのリポタンパク質代謝に着目して解明することにより、低エネルギー摂取における産卵の代謝調節を理解し、それを利用して通常条件下における産卵の効率化を目指す。 初年度である本年度は、現代の採卵鶏における暑熱時の脂質代謝を確認した。その結果、これまでの報告通り、32℃の暑熱条件下では、体重の減少が認められるものの産卵率には影響せず、卵重と卵黄重を低下させて卵形成を促していることが再確認された。さらに、暑熱条件下では、血中トリグリセリド濃度は低下し、肝臓における脂肪酸合成酵素の遺伝子発現は低下していた。一方で、暑熱時には肝臓におけるコレステロール合成酵素のmRNA発現は顕著に低下しているのに対し、血中コレステロール濃度の低下は認められなかった。卵黄中では、トリグリセリド濃度に暑熱の影響は認められなかったのに対して、卵黄コレステロール濃度は増加する傾向が認められた。よって、暑熱時には血中コレステロール濃度を一定に保つ代謝機構が存在し、コレステロール代謝が卵形成に大きく関与している可能性が推測された。加えて、卵巣ではF4以降の卵胞で急速に重量が増加しており、暑熱における脂質輸送と取り込みの低下を保障する機構が機能していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である本年度は、通常環境下(25℃)と暑熱環境下(32℃)で採卵鶏を飼育し、肝臓、血液、卵胞を採取する。肝臓の脂質関連mRNA発現、血液の脂質関連因子、および卵胞の重量とその組成を測定し、どこに産卵率を維持する機構の本体があるかを明らかにすることを試みた。その結果、本年度の当初計画目標であった「①肝臓、血液、卵胞における脂質代謝の概要を明らかにする。」を達成することができている。具体的には、暑熱条件下では、仮説通り産卵率の低下は認められず、肝臓における脂質代謝は従来の報告通り顕著に低下し、その結果、血中のトリグリセリド濃度も低下していた。一方で、血中の総コレステロール濃度は通常環境下と暑熱環境下の採卵鶏で差は認められず、血中のリポタンパク組成、あるいはリポタンパクの構造が変改している可能性が示唆された。さらには、卵胞では劇的な代謝調節が行われている可能性が示唆された。すなわち、血中のトリグリセリド濃度が低下しているにも関わらず、卵胞の脂質濃度に変動が認められないこと、暑熱環境下の採卵鶏のF4卵胞では、通常時のF4卵胞に比べても急激な卵黄蓄積が行われていることが明らかとなった。よって、暑熱時における卵生産維持機構は、血液および肝臓以外の臓器、そして卵巣によって補償されていることを明らかにした。以上の理由から、本試験は当初計画通りに進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、当初計画通り進めることで問題ないと考えられる。すなわち、令和3年度には、令和2年度の結果をもとに、「②卵胞の急速成長をリポタンパク代謝の観点から詳細に解析する」を行う。血中リポタンパク質の組成や構造、そしてその粒子径、卵巣におけるリポタンパク質の取り込みおよび取り込み担体や細胞接着因子を測定する。これらの測定は、これまでのリポタンパク代謝の研究を先進的に進めてきた申請者の技術が有効に使用される。令和4年度は、前年度までに得た結果をもとに、「③リポタンパク質の栄養制御による実用的制御手法の開発」を行う。すなわち、制御因子を調節する栄養素をスクリーニングして、実際の産卵試験を行う。現時点では、リポタンパクの形状とそれを取り込む卵胞組織を変動させることができる栄養素を突き止めることが重要であると予想しており、購入した備品であるファインバブル発生装置が有効に使用できると考えている。以上の試験研究を通じて、採卵鶏の卵生産にとって最も飼料エネルギーと時間を要する卵胞の発達を効率化し、飼料要求率を格段に改善する新たな技術を開発する基盤を公表する。なお、本年度は初年度であるため、次年度の結果を合わせて公表し、論文化する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ感染防止のために、研究成果の発表旅費の使用ができなかった。また、研究機関を異動したため、リポタンパク解析に関わる経費を本年度中に使用することができなかった。次年度、有効に経費を使用して当初計画通りに研究を遂行する。
|