研究課題/領域番号 |
20K06361
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉山 稔恵 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10272858)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オステオカルシン / 骨 / 筋 / クロストーク |
研究実績の概要 |
現在、肉用鶏において脚弱が、卵用鶏においては破卵が頻発し、養鶏産業に多大な経済的損失をもたらしている。これらは、成長期において十分な骨量や骨密度を有した骨格が構築されず、急速な体重増加や高い産卵性により発症する。したがって、脚弱や破卵を防止するには、強健な骨格を構築することが不可欠である。本研究では、骨格筋より分泌されるマイオカイン(イリシン)と骨より分泌されるオステオカイン(オステオカルシン)の作用機序を明らかにするとともに、この骨と筋のクロストーク機構を利用して、強健な骨格の構築し、脚弱の防止と卵殻質の改善を図る。 本年度は、オステオカルシンの作用機序を明らかにすることを目的とし、以下の知見が得られた。 1.孵卵3-15日の肉用鶏胚におけるオステオカイン(オステオカルシン)ならびにオステオカルシン受容体GPRC6Aの相対的発現量について、経時的に検討した。その結果、孵卵の経過とともに、オステオカルシンの発現量は増加し、孵卵13、15日では孵卵11日と比較して発現量が有意に高かった。また、GPRC6Aの発現が、孵卵3-15日の全てにおいて観察された。アリザリンレッド染色を用いた透明全身骨格標本では、孵卵8日に石灰化領域が始めて観察され、その後、拡大した。以上のことから、骨石灰化に伴うオステオカルシンの発現開始とその後の発現量の増加により、筋線維の形成が促進されることが示唆された。 2.孵卵10日に、大腿骨皮質骨内側表面に破骨細胞がみられ、骨吸収の開始がうかがえた。その後、破骨細胞数は増加し、孵卵12-15日の皮質骨においては破骨細胞のモデリングによる空胞がみられた。以上のことから、肉用鶏胚発生過程において、オステオカルシンは骨形成により骨基質に沈着した後、骨吸収による脱カルボキシル化が行われ、内分泌因子として機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度において、肉用ならびに卵用鶏胚の各組織におけるFNDC5/イリシンの発現について、リアルタイムPCR法で検討した。その結果、胸筋でFNDC5/イリシンの相対的発現量は最も多く、次いで大腿筋、腸管、心臓、筋胃の順で続いた。肝臓では、発現はみられなかった。免疫組織化学法による観察では、FNDC5/イリシンの局在が胸筋、大腿筋、心臓ならびに筋胃の筋線維(筋細胞)にみられ、腸管の筋層にも観察された。しかしながら、肉用鶏と卵用鶏の間で、FNDC5/イリシンの発現と局在に相違はみられなかった。また、孵卵14-18日の胸筋ならびに大腿筋において、経時的にFNDC5/イリシンの相対的発現量が減少することが示され、孵卵18日おいては肉用鶏における相対的発現量が卵用鶏と比較して低かった。本研究により、肉用鶏および卵用鶏の鶏胚発生過程におけるFNDC5/イリシンの発現と局在が明らかとなり、イリシンの筋と骨のクロストーク因子として骨格の構築(骨形成)に関与していることが示唆された。令和3年度においては、孵卵3-15日の肉用鶏胚におけるオステオカイン(オステオカルシン)ならびにオステオカルシン受容体GPRC6Aの相対的発現量について、経時的に検討した。その結果、孵卵の経過とともに、オステオカルシンの発現量は増加し、孵卵13、15日では孵卵11日と比較して発現量が有意に高かった。また、GPRC6Aの発現が、孵卵3-15日の全てにおいて観察された。アリザリンレッド染色を用いた透明全身骨格標本では、孵卵8日に石灰化領域が始めて観察され、その後、拡大した。加えて、骨吸収を担う破骨細胞は、孵卵10日に観察され、その後、孵卵の経過とともに破骨細胞数は増加した。以上のことから、骨石灰化に伴うオステオカルシンの発現開始とその後の発現量の増加により、筋線維の形成が促進されていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.令和2年度において、胚発生過程における鶏胚のFNDC5/イリシンの発現と局在の動態が示された。今後は、孵化後の鶏におけるFNDC5/イリシンの発現と局在を肉用鶏および卵用鶏について比較することで、骨格構築におけるイリシンの役割と作用機序について明らかにする。 2.令和3年度において、骨由来のオステオカルシンの筋線維形成に関与していることが示唆された。今後は、肉用鶏と卵用鶏のオステオカルシンならびにGPRC6Aの発現量の相違を検討し、骨と筋のクロストーク機構による両者の筋形成の相違をもたらすメカニズムを明らかする。 3.令和2年度で確立した骨格筋の培養筋系細胞を用いて、オステオカルシンの筋組織への作用機序を詳細に検討する。また、骨芽細胞および破骨細胞の培養系を用いて、イリシンの骨形成および骨吸収へ及ぼす影響を明らかにし、骨と筋のクロストーク機構を明らかにする。 4.令和2年度で確立した骨格筋の培養筋系細胞ならびに培養骨芽細胞を用いて、相互のクロストーク機構の存在を示すとともに、クロストーク因子を明らかにする。 5.肉用鶏および卵用鶏の成長過程におけるメカニカルストレス(運動負荷)が、骨由来のオステオカルシン、筋由来のイリシンの発現に及ぼす影響を明らかにし、メカニカルストレスによる骨と筋のクロストーク機構による骨と筋形成の相互調節メカニズムを明らかにする。
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