本研究では、肉用鶏と卵用鶏における筋より分泌されるイリシンと骨より分泌されるオステオカルシンの発現と局在を明らかにし、筋と骨のクロストーク機構について検討した。次の知見が得られた。 1.肉用ならびに卵用鶏胚におけるFNDC5/イリシンは、骨格筋に高発現し、筋線維に局在していた。また、FND5/イリシンは骨格筋のみではなく、心筋、筋胃ならびに腸管筋層にも局在しており、骨格筋以外の筋線維もイリシンを分泌していることが示された。 2.骨格筋におけるFNDC5/イリシンの発現量は、孵化後の成長とともに減少した。一方、心筋ならびに筋胃での発現量は孵化後、成長とともに増加した。また、骨格筋におけるFNDC5/イリシンの発現量は、肉用鶏よりも卵用鶏で高い発現量を示した。これらの結果より、FNDC5/イリシンは胚発生ならびに成長過程と関連して分泌され、骨形成に関与することが考えられた。また、FNDC5/イリシンの低い発現量が肉用鶏での骨の脆弱化に関与している可能性が示唆された。 3.孵卵3-15日の肉用鶏胚全体におけるオステオカルシンの発現量は、孵卵の経過とともに増加した。アリザリンレッド染色を用いた透明全身骨格標本では、孵卵8日に石灰化が始めて観察された後、その領域は胚発生とともに拡大した。孵卵10日には、皮質骨内側表面に破骨細胞がみられ、その後、破骨細胞数は増加した。これらの結果より、胚発生過程において、オステオカルシンは骨形成により骨基質に沈着した後、骨吸収による脱カルボキシル化が行われ、内分泌因子として機能していることが示唆された。また、鶏胚全体におけるオステオカルシンの発現量は肉用鶏で高く、オステオカルシン受容体であるGPRC6Aの発現量も肉用鶏で高かったことから、卵用鶏胚と比較して肉用鶏胚では骨から分泌されるオステオカルシンにより、骨格筋の形成が促進されるものと考えられた。
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