研究課題
本研究期間を通して、生体適合性の高い素材を用いてガラス化保存の新規デバイス開発を目指す対象材料はウシ卵丘卵子複合体 (COC) とラット膵ランゲルハンス島 (膵島) で、いずれも主役を演じる細胞 (卵子、β細胞) 以外にも多種多様な機能をもつ細胞群から構成され、それらが協同して働くことを特徴とする細胞塊である。本研究では、冷却前後の諸操作を簡便化できる新規デバイスをシルクなどの生体適合性の高い材料から作製・加工し、これらの細胞塊のガラス化保存に適用することを目的としている。本年度、ラット膵島に対する大容量ガラス化デバイスとして有効なことをすでに報告したナイロンメッシュデバイス (Yamanaka et al., Biopreserv Biobank 2017)、および加工性、吸水性に優れた孔質のシルクフィブロインスポンジディスク上において大量かつ一括でガラス化保存したラット膵島が、正常な形態を保って回収できること、そしてIn vitroでグルコースに応答して正常にインスリンを分泌する能力を維持していることを確認した。さらに、ストレプトゾトシン投与によって誘発した1型糖尿病モデルラットへの腎被膜下膵島移植によって同ラットの血糖値を正常化させられることも明らかにし、In vivoでもガラス化・加温膵島が糖尿病治療に対して正常機能を発揮できることを実証した。新型コロナウィルス感染拡大が収束の気配を見せず学会発表等の機会もなかなか活かせない中、この研究内容をまとめた論文をIslets誌に発表することに成功した (Nakayama-Iwatsuki et al., Islets 2020)。
2: おおむね順調に進展している
人類未曾有のコロナ禍の影響を強く受け、国内外のいずれにおいても学会等での発表機会を作ることができないまま、本研究課題の1年目 (令和2年度) が終了した。この間の学会発表は1件のみで、しかも大会開催そのものは中止となって抄録集がExperimental Animals誌に掲載されるだけの誌上発表扱いとなった (中山ほか, 第67回日本実験動物学会)。しかしこの演題「シルクフィブロインディスクをデバイスとしてSSV法によってガラス化保存したラット膵島の腎被膜下移植」の内容を柱とした研究論文をIslets誌に投稿し、受理・掲載してもらうことができた。その掲載内容とは、「ナイロンメッシュデバイスを比較対照とし、加工性・吸水性に優れた多孔質のシルクフィブロインスポンジディスク上において100個をひと塊りとしてガラス化保存したラット膵島が、正常な形態を保って回収されること、そしてIn vitroでグルコースに応答してインスリンを分泌する能力を正常に維持していることを確認した。さらに、ストレプトゾトシン投与によって誘発した1型糖尿病モデルラットへの腎被膜下膵島移植を通して同ラットの血糖値を正常化させることも明らかにし、In vivoでもガラス化・加温膵島が正常機能を発揮できることを実証した」というものである。よって、「おおむね順調に進展している」と言える。
ラット膵ランゲルハンス島 (膵島) のガラス化保存に関する研究テーマでは、In vitroでの生存率評価やインスリン分泌能評価を行うとともに、ストレプトゾトシン投与によって糖尿病誘発したモデルラットの腎被膜下へ膵島移植を行い、ラット血糖値の正常化度合いに基づき、ガラス化・加温膵島の糖尿病治癒に対する機能を調べる。このときナイロンメッシュに代わるデバイスとして生体適合性の高い材料 (シルクフィブロインスポンジ) を用いる。シルクフィブロインスポンジにおいて、多孔質スポンジの孔径や厚みを変えた上でガラス化デバイスとしての適性を評価するとともに、加温後の膵島をデバイスから回収することなく、直接、腎被膜下へ膵島のスキャフォルドとして移植することを試みる。さらに、移植膵島の生着を助ける血管新生作用を期待して、血管内皮増殖因子 (Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF) あるいは真空加圧含浸法により調製した肝臓の脱細胞化組織 (Acellular CM:aECM) を共移植することを試行する。肝臓由来aECMについては、新鮮膵島機能の強化作用があるかどうか、または加温膵島の回復促進効果を有するかどうか、をIn vitroでのインスリン分泌能に基づいて検討する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Nature Comminications
巻: 12 ページ: 1328 1-10
10.1038/s41467-021-21557-x
Islets
巻: 12 ページ: 145-155
10.1080/19382014.2020.1849928