本研究では、冷却前後の諸操作を簡便化できる新規デバイスをシルクなどの生体適合性の高い材料から作製・加工し、ウシ卵丘卵子複合体やラット膵島のような多種多様な機能をもつ細胞群から構成される細胞塊のガラス化保存に適用することを目的としている。これまでに、加工性・吸水性に優れた多孔質のシルクフィブロインスポンジディスク上において大量かつ一括でガラス化保存したラット膵島が正常な形態を保って回収できること、体外でグルコースに応答して正常にインスリンを分泌する能力 (GSIS) を維持していること、ストレプトゾトシン投与によって誘発した1型糖尿病モデルラットへの腎被膜下膵島移植によって同ラットの血糖値を正常化させられることを明らかにした (Islets 2020; Transplant Proc 2021)。ウシ卵丘卵子複合体に対しては多層シルクフィブロインシートが高吸水性ガラス化素材になるという報告 (Theriogenology 2020) も合わせ、細胞塊を対象にした新規ガラス化デバイスの開発という当初の目的はすでに達成できている。最終年度においては次なる膵島機能の高度化テーマへの展開を見据え、中胚葉由来の組織である骨や軟骨、脂肪などに分化できる体性幹細胞の間葉系幹細胞 (MSC) を膵島移植プロトコルに組み込み、糖尿病治療成績を向上させたという報告に着目した。ラットモデルにおいて脂肪組織に由来するMSC様幹細胞である脂肪由来幹細胞 (ADSC) を用いて膵島の品質改善を目指したが、ラットADSC培養上清は膵島生存性やGSISを改善する因子を含んでいる可能性が示唆されたものの、ADSCとの共培養というアプローチでは膵島の機能回復・亢進に繋がらないという予備実験結果を得たにとどまった。
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