研究課題/領域番号 |
20K06366
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安尾 しのぶ 九州大学, 農学研究院, 准教授 (30574719)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 季節 / 日長 / 骨格筋 / 哺乳期 / 成長 / マウス / ウシ |
研究実績の概要 |
昨年度の実験により、短日条件で出生したマウスにおいて、出生直後より日々の明期を徐々に長くする長日処理(40分/週)を与えると、体重増加が有意に早まることを見出した。今年度は同様の実験を再度実施し、長日処理による体重増加の再現性を確認した。一方で、日長を徐々に短くする短日処理では明確な体重変化は見られず、マウスでは長日処理に特異的な反応であることが示唆された。さらに、上記の長日処理を行ったマウスの脳視床下部を6週齢時点で採取し、mRNA-seqを実施した。その結果、成長や神経発達に関連する遺伝子群の発現変化が広く検出された。従来、ハムスター等の季節繁殖動物では日長による体重制御が知られるが、そのメカニズムは日長伝達ホルモンであるメラトニンに依存する。しかし、本実験で使用したマウスはメラトニンをほとんど合成できないC57BL/6J系統である。したがって、本実験で得られた結果から、未知の増体制御機構が示唆される。これを解明できれば、動物生産に極めて重要な増体促進のための新しい技術開発に繋がる可能性がある。 また、骨格筋において哺乳期の日長により長期的な発現制御をうけるStx16の機能性評価のため、ノックアウトマウスを入手してホモ個体を得た。実験に十分な個体数を得た後に、表現型解析を進める予定である。 マウスを用いた研究と並行して、哺乳期に日長処理を行ったウシの出荷時における胸最長筋および皮下脂肪サンプルの分析を実施した。長日処理群では短日処理群に比べて枝肉総重量が多いことや、骨格筋のアミノ酸組成が一部異なることが解明された。骨格筋のゲノムDNAを抽出し、Stx16のプロモーターにおけるDNAメチル化解析を行ったが、現在のところ有意な変化は検出されていない。ヒドロキシメチル化やヒストン修飾などについて引き続き検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスにおいて日長処理により増体速度を早めることに成功し、再現性を確認できた。未知の増体制御機構を分子レベルで解明するため、当初の計画にはなかったmRNA-seqを前倒し請求により取り入れて、体重制御の中枢である視床下部の遺伝子発現を網羅解析した。その結果、成長や神経成長に関わる遺伝子群が広く検出され、未知のメカニズムを解明するための大きな手がかりが得られた。 Stx16のノックアウトマウスのホモ個体が得られ、現在順調に個体数を増やしている。また、哺乳期に日長処理を行った黒毛和種のウシの出荷時サンプルの分析も進み、枝肉総重量や骨格筋のアミノ酸変化などの結果を得た。ゲノムDNAを用いた分析ではDNAメチル化状態の違いが検出されていないものの、引き続きDNAヒドロキシメチル化やヒストン修飾を分析するための実験系を整えた。 以上の進捗状況より、本研究の実験計画は順調に進んでいると判断できる。次年度からの実験実施に向けた準備状況は良好であり、スムーズな実験実施が予想される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、哺乳期の日長による新しい増体促進メカニズムについて、マウスにおけるmRNA-seqで得られた結果をもとに解明していく。具体的には、mRNA-seqにて発現差異が見られた主要な遺伝子群について、長日処理マウスの哺乳期から離乳後までの週齢による発現変化をqPCRで確認する。また、C57BL/6Jマウスの日長反応機構はメラトニン非依存的であること、当該マウスではグルココルチコイド分泌が日長の影響を受けることから、グルココルチコイド受容体アンタゴニストによる阻害実験を行う。 Stx16のノックアウトマウスにおける表現型解析については、自家繁殖で必要な動物数を確保でき次第、情動・記憶行動解析や筋力試験、筋繊維型の組成解析、筋形成・分化遺伝子の発現解析、アミノ酸分析などの生化学的解析を行う。 哺乳期に日長処理を行ったウシの出荷時サンプルの分析については、ゲノムDNAを用いた解析を進める。DNAヒドロキシメチル化抗体免疫沈降-qPCRにて関連遺伝子のDNAヒドロキシメチル化解析を行う。またH3およびH4ヒストン修飾レベルについて、マルチプレックス検出キットを用いて分析する。
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