研究課題/領域番号 |
20K06369
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中島 一喜 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (70370583)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | mTORシグナリング / mTORC1 / mTORC2 / 骨格筋 / 鶏培養骨格筋細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、鶏培養骨格筋細胞を用いてmechanistic target of rapamycin (mTOR)を制御する因子について、ホルモン、成長因子ならびに栄養素がmTOR活性に及ぼす影響を検討した。特に、mechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1)ならびにmechanistic target of rapamycin complex 2 (mTORC2)活性の違いに及ぼすホルモン、成長因子ならびに栄養素の影響を調べた。mTORC1活性として、p70 ribosomal S6 kinase 1 (S6K1)と下流のタンパク質であるS6 ribosomal protein (S6)およびeukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1 (4E-BP1)のリン酸化を調べ、mTORC2活性としては、AKTと下流のタンパク質であるGlycogen synthase kinase 3β (GSK3β)のリン酸化を調べた。インスリンならびにIGF-IによりS6K1、S6および4E-BP1のリン酸化が増加し、また、AKTおよびGSK3βのリン酸化も増加した。アミノ酸により、S6K1、S6および4E-BP1のリン酸化が増加したが、AKTおよびGSK3βのリン酸化に影響を及ぼさなかった。グルコース、ビタミンおよび脂肪酸(短鎖、中鎖、長鎖)により、S6K1、S6、4E-BP1、AKTおよびGSK3βのリン酸化に変化は見られなかった。これらの結果は、インスリンならびにIGF-IはmTORC1ならびにmTORC2活性を増加させること、アミノ酸はmTORC1を増加させるが、mTORC2には影響を及ぼさないこと、グルコース、ビタミンおよび脂肪酸はmTORC1ならびにmTORC2に影響を及ぼさないことを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鶏培養骨格筋細胞を用いて、mechanistic target of rapamycin (mTOR)を制御する因子について、インスリン、IGF-I、栄養素(グルコース、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)がmechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1)ならびにmechanistic target of rapamycin complex 2 (mTORC2)活性に対する影響を検討した。まず、鶏培養骨格筋細胞を用いてmTORC1ならびにmTORC2活性測定法確立した。それぞれのmTORの標的タンパク質ならびにさらに下流のタンパク質のリン酸化の測定をウエスタンブロット法にて可能にした。このことにより、鶏骨格筋においてmTORC1ならびにmTORC2活性の測定法を確立することができた。次に、鶏培養骨格筋細胞を用いて、ホルモン、成長因子ならびに栄養素のmTORC1ならびにmTORC2活性に対する影響を調べた。その結果、インスリンならびにIGF-IによりmTORC1ならびにmTORC2活性は増加し、アミノ酸はmTORC1活性のみを増加させことを明らかにした。しかしながら、グルコース、ビタミンおよび脂肪酸(短鎖、中鎖、長鎖)はmTORC1ならびにmTORC2活性に影響を及ぼさなかった。 これらの結果により、鶏骨格筋においてmTORC1ならびにmTORC2活性の制御が可能なホルモン、成長因子ならびに栄養素の一端が明らかになった。また、mTORC2活性のみを制御する因子については見出すことができず、鶏培養骨格筋細胞を用いて、in vitroで、さらに検索する必要がある。次年度もmTORC1ならびにmTORC2活性を制御する因子について鶏培養筋肉細胞を用いて検討する予定である。以上のことから、研究の目的を概ね順調に達成していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度も、mechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1)ならびにmechanistic target of rapamycin complex 2 (mTORC2)活性を制御する因子について鶏培養筋肉細胞を用いて検討ならびに検索する予定である。そこで、in vitroで、抗酸化物質等などの非必須な栄養素によるmTOR活性に及ぼす影響を調べる。mTORC2活性のみを制御する栄養素は未だ明らかにされていないことから、これまでに確立した実験系を用いて、見出したと考えている。mTORC2活性のみを活性化する栄養素が明らかになれば、骨格筋タンパク質代謝に対する影響を検討し、骨格筋量との関係性を明らかにすることが可能となる。また、前年度までに得られた結果から、鶏骨格筋においてmTORC1ならびにmTORC2活性を制御しているインスリン、IGF-Iおよびアミノ酸の影響を、in vivoで検討するため、鶏骨格筋のmTOR活性に対する栄養生理学的制御的手法を用いて動物実験を行う。肉用鶏ヒナを用いて、飼料中のエネルギー含量ならびにタンパク質含量を変化させることにより、栄養生理学的制御(インスリン、IGF-Iおよびアミノ酸)によるmTOR活性と骨格筋量との関係を調べる。栄養生理学的制御により、生体内でのホルモンならびに栄養素がどのような状態であるのかを確認するため、血中レベルで確認する。これらの栄養生理学的制御により、in vivoでの鶏骨格筋におけるmTORC1ならびにmTORC2活性に対する違いならびに栄養素の影響について明らかになる。 in vitroとin vivoの実験から、鶏骨格筋におけるmTORC1ならびにmTORC2活性と骨格筋量の関係が明らかになるとともに、栄養生理学的制御の可能性を示唆することが可能となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画の細胞実験ならびに分析に関して、予定よりやや安価となり、現使用額で遂行できたため、次年度の予算と合算し物品費として使用予定である。物品費として99万円、旅費として10万円、人件費・謝金として10万円、その他として10万円を使用予定である。
|