本研究では、鶏骨格筋のmechanistic target of rapamycin (mTOR)を制御する因子として栄養素がmTOR活性に及ぼす影響をin vitroとin vivoで検討した。特に、mTORC1ならびにmTORC2活性の違いに及ぼす栄養素の影響を調べた。本年度は、昨年度までの結果から、アミノ酸のリジンならびにアルギニンが鶏骨格筋におけるmTORの活性化に重要な役割を果たしている可能が示唆されたため、鶏培養骨格筋細胞を用いて、リジンならびにアルギニンの影響を調べた。その結果、リジンならびにアルギニンによりmTORC1活性の指標であるターゲットタンパク質のリン酸化が増加したが、mTORC2の指標であるターゲットタンパク質のリン酸化に影響は見られなかった。次に、肉用鶏ヒナを用いて、骨格筋のmTOR活性に対するリジンならびにアルギニンの影響を調べるため、飼料中のリジン含量を変化させ(肉用鶏ヒナのリジン要求量に対して低リジン含量ならびに高リジン含量の飼料)給与し、血中リジンならびにアルギニン濃度ならびに骨格筋におけるmTOR活性を調べた。その結果、低リジン飼料給与により、血中のリジン濃度は減少し、アルギニン濃度は増加した。一方、骨格筋におけるmTORC1ならびにmTORC2活性に対しては、低リジン飼料給与は見られなかった。高リジン飼料給与した肉用鶏ヒナの血中のリジン濃度は減少し、アルギニン濃度には差は見られなかった。骨格筋におけるmTORC1ならびにmTORC2活性に対しては、高リジン飼料給与の影響は見られなかった。以上の結果から、リジンならびにアルギニンはmTORC1活性を直接増加させる作用があるが、in vivoにおいては血中のリジンならびにアルギニン濃度の変化ではmTORの活性に影響を及ぼさないことが明らかになった。
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