研究実績の概要 |
効率的な子畜生産のためには、胚移植の活用が有用であるが、凍結保存胚の移植は日本では盛んではない。その理由として凍結保存胚移植の受胎率が新鮮胚と比較し低く、輸送・保存を含めた凍結胚の取扱いが新鮮胚と比較し煩雑であることが考えられる。本課題では汎用性が高くかつ受胎性の高い胚保存法を作出することを目的に不凍タンパク質(AFP-III)を利用した牛胚の低温-30℃保存について検討している。 令和2年度はAFP-IIIを利用した牛体外受精胚の耐凍結性を評価するため、緩慢凍結法による液体窒素内保存と-30℃保存におけるAFP-III添加効果を検討した。食肉処理場由来牛卵巣より卵子を採取し、常法に従い体外受精・発生培養を実施した。体外受精後7日目に胚盤胞に達した胚に関し、AFPを添加しないcontrol, AFP-III 0.1, 0.5, 1.0μg/mLを添加した発生培養液にて1時間 38.5℃ 5% O2, 5% CO2にてpre培養した後、AFPを添加しないcontrol, AFP-III 0.1, 0.5, 1.0μg/mLを添加した5%エチレングリコール、6%プロピレングリコール、0.1Mスクロース、4mg/mL 牛血清アルブミンによって構成される凍結液にてプログラムフリーザーを用い、-0.3℃/minの冷却速度で-30℃までの緩慢凍結を行った。凍結後、液体窒素タンクまたは-30℃のフリーザーにて凍結し、保存後24~48時間後に融解し、生存性を検討した。 AFPIII添加pre培養による胚の形態への変化へ認められず、AFPの毒性等は認められなかった。液体窒素保存区では、AFP1.0μg/mLで融解後24時間後の胚の生存性は89%であり、control区(49%)と比較して有意に高い結果となったが、-30℃保存では融解後24時間後の生存性は対照区を含めどの区でも非常に低くAFPの添加効果は認められなかった。今年度は例数が少なかったため、次年度以降は例数を含め、凍結液、AFP濃度を含めた検討をさらに重ねる予定である。
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