研究実績の概要 |
本年度はこれまでに牛体外受精胚の緩慢凍結融解後の生存性に効果があると認められたIII型不凍タンパク質(AFP) 1.0microG/mL添加区を用いて胚の遺伝子発現を評価し、さらに移植試験を実施した。 食肉センター由来卵巣から回収した卵子により作成した体外受精胚盤胞を用い、対照区は通常の凍結保存液にて保存し、AFP区はAFP 1.0microG/mLの培養液にて1h前培養後、AFP 1.0microG/mLを含む凍結液にて保存した。液体窒素内で少なくとも1か月以上保管した胚を試験に供試した。培養液・保存液への血清利用は胚の遺伝子発現異常や産子の過大化を引き起こす可能性があるため、本課題では胚発生培養液、凍結保存液は血清フリーとした。 遺伝子発現試験では融解後、38.5℃ 5% CO2 5% O2気相下で 20% FBS, 還元剤 100microM beta-mercaptoethanolを含むM199培養液中にて24h回復培養後の生存胚のみを回収し、qRT-PCRにて各種遺伝子発現(HSPA1A, POU5F1, NANOG, CDX2, IFNT, CASPASE3)を比較した。ストレスマーカーであるHSPA1Aの発現はAFP区で有意に低く、栄養外胚葉マーカーであるCDX2の発現はAFP区で有意に高かったが、他の内部細胞塊マーカーやアポトーシスマーカー遺伝子に差は認められなかった。HSPA1Aの結果からAFP添加区で凍結による障害が軽減される可能性が示唆された。 また、移植試験では発情同期化処理した黒毛和種雌牛に対照区2頭,AFP区1頭に対し、それぞれ1個ずつの胚を移植したところ、対照区1頭のみが受胎した。本結果では、例数が少なくAFPの添加による受胎性効果は評価できていない。
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