研究課題/領域番号 |
20K06372
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
平尾 雄二 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, グループ長 (10355349)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵母細胞 / 体外発育 / 基底膜 / 細胞外マトリックス / マトリゲル / コラーゲン |
研究実績の概要 |
細胞外マトリックス分子や成長因子などの基底膜由来成分を含まない培養インサート(基質)としてミリセルを対照区とすることを令和2年度に決定したが、基質への顆粒膜細胞の接着状態が卵母細胞の発育および顆粒膜細胞集団の形態に及ぼす影響が極めて大きいことも明らかになってきた。その際、I型コラーゲンゲルあるいはマトリゲルの添加の有無といった単純な区分では疑問が解消されないと考えられたことから、マトリックス成分を様々な濃度で組み合わせてミリセルに塗布し、顆粒膜細胞および卵母細胞への影響を調べた。平面基質上で卵母細胞を発育させるという意味での二次元(2D)培養において、直径約100μmの成熟能力を有さないウシ卵母細胞を含む卵母細胞-顆粒膜細胞複合体(計378個)を培養し、以下の結果を得た。 1)無処理あるいは単純にFBSを塗布し乾燥させたミリセルで培養した場合、基質に十分に付着せずスフェロイド様の構造物となる複合体が現れた。内部の卵母細胞は最終的に死滅することから、基質への接着状態を形成させる必要性が確認された。 2)ゲル化させていないI型コラーゲンゲルあるいはウシ胎子血清とコラーゲンゲルの混合物(8:2)を塗布して乾燥させたインサート上で培養した場合、培養1日後以降に著しい細胞の遊走が観察され、それに伴い卵母細胞の裸化や平板化(球体構造を喪失)が認められたことから、接着の効果を制限する必要があることが確認された。 3)マトリゲルを50倍希釈した場合、あるいは希釈したマトリゲルと100倍希釈のコラーゲンゲルと混合した場合も、強い接着と遊走が観察された。200倍ないし1000倍程度に希釈したマトリゲルでは著しい遊走は観察されなかった。 4)直径1mm程度(0.5μl)の細胞外マトリックス成分のスポットで発育させる培養系においても良好な形態が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在使用しうるマトリックスとしてI型コラーゲンゲルおよびマトリゲルは代表的な成分であり、市販品として誰にでも入手できることから、それらが卵母細胞に及ぼす影響について得られた情報の価値は高いと考えられる。コラーゲンゲルあるいはマトリゲルを基質として安定的な組織培養が可能となって初めて基底膜の放出する因子の作用を追究することができる。今年度においては、マトリックスの機能をある程度制限する必要があることを明らかにし、平面的な範囲における制限および濃度における制限、さらにそれらを組み合わせの条件においての効果に関する情報を得ることができた。そのような知見に基づいて次年度以降の研究を進められる点において進捗している。 一方、年度初頭から夏にかけてCOVID-19対策として行われた全国的な活動の制限が令和2年度に引き続いて行われ、実験材料のウシ卵巣が一時的に入手困難な状況となり、さらに同時期に研究活動がベンチワークではなく情報収集や情報整理に偏ったという経緯があった。それらの状況に対応しつつ、課題を遂行できた点でおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験結果から、長期培養で問題となる顆粒膜細胞の遊走状態の制御において、基質およびゲルの選択だけでなく、それらの濃度および平面的な範囲が極めて重要であることが確認された。当初の計画から大きな変更なく最終年度となる次年度の実験を遂行する。 次年度には、令和3年度で使用した細胞成長因子豊富なマトリゲルではなく、因子を低減させたマトリゲルについて、濃度と範囲を限定して使用することにより、卵母細胞の発育に及ぼす影響を明らかにする。アクチビンや上皮成長因子などの細胞成長因子は必ずしも卵母細胞の生存性や発育を高める効果を示さず、悪影響と見られる作用を示す結果も得られている。成長因子低減型のマトリックスを使用したうえで、基底膜構成成分のうちで、成長因子としての作用もつ分子の効果を明らかにする。例えば、bFGF、IGF-1、TGF-β、PDGF、NGFである。そのうち、IGF-1やTGF-βについてはすでに予備的な検討を始めており、アッセイ方法を単純化した上で最終的な比較検討を行う。マトリックス成分として、ラミニン、IV型コラーゲン、エンタクチン等についても平面的な範囲と濃度的な限定をおこなって、マウスの卵母細胞も利用しつつ検討を進める。最終的に、最適な条件で発育させた卵母細胞から体外受精胚を作出してその能力を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度初頭から夏にかけてCOVID-19対策として行われた全国的な活動の制限に伴い、実験材料のウシ卵巣が(6月末までおよび7月から9月末まで)入手困難となり、やむを得ず実験の大幅な変更を強いられた経緯がある。具体的には、研究活動がベンチワークではなく(比較的経費のかからない)情報収集等に偏ったことから、採材のための出張旅費や実験遂行のための消耗品費などが計画通りの使用とならず、次年度使用額が生じることとなった。 次年度においては、実験内容と回数を充実させるだけでなく、事前に細胞を凍結することによって、仮に同様の状況に陥った場合でも研究が停滞しないような対策をとるとともに、サンプルの分析を発注するなどアウトソーシングの利用を含めて次年度使用額を活用する。
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