研究課題/領域番号 |
20K06373
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
澤井 健 岩手大学, 農学部, 教授 (90390864)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウシ / IVF胚 / 胚発育・組織分化 / 遺伝子発現 / IGFBP-3 / OCT-4 / CDX2 / FGF4 |
研究実績の概要 |
本研究は、ウシ体外受精(IVF)胚の低い受胎性の改善を最終目的とし、IVF胚の受胎性を低下させる原因となっている因子の特定とその人為的制御によるIVF胚の発育不全および組織分化異常の克服を目指す課題である。具体的にはIVF胚の組織分化異常および発育不全に関与する因子の同定とそれら因子の発現異常を引き起こす機構の解明、さらにはIVF胚の体外発生培地への成長因子などの添加によるそれら因子発現の人為的制御を行う。 研究初年度にあたる2020年度は、ウシIVF胚の発育不全と組織分化異常の原因因子を明らかにするため、IVFおよび体内受精・体内発生(Vivo)由来の胚盤胞期胚における遺伝子発現量をリアルタイムPCR法により比較した。その結果、IGFの輸送に関わるIGFBP-3、初期胚の組織分化を制御するOCT-4、CDX2およびFGF4の遺伝子発現量において、IVF胚はVivo胚と比較して有意に低い値を示すことが明らかとなった。これら因子は、胚発育および組織分化を制御する極めて重要な因子であることから、これら因子の発現異常がウシIVF胚の発育不全および組織分化異常を引き起こす要因の一つである可能性が高いことが明らかとなった。また、本年度の研究により、これら因子の発現異常はIVF胚の体外発生培地に添加される血清などタンパク質成分の違いに関わらず起きることが明らかとなった。 これら研究結果により、次年度以降の研究において、解析ターゲットとなる因子が明確となり、これら因子の発現動態を基準に、IVF胚の遺伝子発現発現が起こる機構解明とその人為的制御を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究初年度にあたるため3つの研究課題のうちの1番目の課題であるウシIVF胚の発育不全および組織分化異常に関わる因子の解明を中心に取り組んだ。その結果、ウシIVF胚の胚盤胞期において体外発生培地の組成に関わらず遺伝子発現異常を示す遺伝子が4因子特定することができた。いずれの因子も胚発育および組織分化に極めて重要であることが報告されている因子であり、IVF胚の発育不全および組織分化異常に関与する可能性が高い。当初の目的であるウシIVF胚の発育不全および組織分化異常に関わる因子の有力な候補因子を同定することができたことから、2020年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」ものとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、残る2つの課題であるIVF胚の発育不全および組織分化異常に関わる因子の発現を制御する機構の解明およびそれら因子の人為的な発現制御を推進するため、2020年度に明らかとした因子群とさらに新たに探索する因子群の発現動態を指標に、それら因子の発現を変化させる要因の解析を実施する。さらに2021年度においては、胚盤胞期だけでなく、ウシ胚の着床直前の発生段階にあたる伸長期を含めて遺伝子発現解析を実施し、ウシIVF胚の発育不全および組織分化異常の原因因子の特定を進める。また、IVF胚の遺伝子発現異常を引き起こす機構に関しては、引き続き体外発生培地に添加するタンパク質成分に着目して研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延から、北海道立総合研究機構畜産試験場において予定していた伸長期胚のサンプリングが実施できず、伸長期胚の遺伝子発現解析を次年度にまわしたため、当初予定していた遺伝子発現解析費用の一部が執行されず次年度使用額が生じた。また、外部機関でのサンプリング延期に加えて情報収拾および成果発表を予定していた学会がオンライン開催となったため、旅費を執行しなかったことによって次年度使用額が生じた。これら次年度使用額は、2021年度に伸長期胚サンプル解析を実施する費用として使用する予定であり、さらに2021年度には、初年度で得られた成果を複数発表する予定であることから旅費としても執行する。
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