研究実績の概要 |
ウシの体外受精(IVF)胚は体内受精・体内発生(Vivo)胚と比較して低い受胎率や産子の過大化などの問題を有する。これらウシIVF胚における様々な異常は、IVF胚の遺伝子発現異常に起因すると考えられている。R3およびR4年度はウシIVF胚の発育不全に関連する遺伝子発現動態の解析を行った。一方、ウシ胚は、胚盤胞期以降に胚が長く伸びる伸長(EL)期という発生段階を経た後に着床が起こる。ウシIVF胚に関するこれまでの研究は、胚盤胞期までの発生段階における研究が中心であり、着床直前の重要な発生段階であるEL期における研究は進んでいない。そこで最終年度は、ウシIVF胚において胚盤胞期での遺伝子発現動態の変化、さらに胚移植後の受胎率の向上が報告されているDKK1とCSF2の体外発生培地への添加がウシIVF胚のEL期への発生におよぼす影響について検討した。 mTALP培地を体外発生培地とし、IVF後4日目にDKK1(100 ng/ml) およびCSF2(100 ng/ml)を添加または無添加の条件下で培養した胚盤胞期胚を1頭のレシピエント雌ウシにつき10胚ずつ移植した。IVF後15日目もしくは過剰排卵AI後16日目(Vivo胚)にEL期胚を子宮灌流法によって回収した。EL胚の長径および短径について調べた。 EL胚の長径において、DKK1およびCSF2の添加の有無にかかわらず、IVF胚(6.0±1.6 mm, 8.2±1.0 mm)はVivo胚(16.6±3.9 mm)と比較して有意(P<0.05)に短く、IVF胚間で差は認められなかった。短径においては異なる区間に差は認められなかった。IVF胚におけるEL胚の回収率は53-60%であった。本研究から、IVF胚のEL期での発育不全が明らかとなった一方で、体外発生培地へのDKK1とCSF2の添加はEL期への発育に影響しないことが示された。
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