今年度は、ウシ卵母細胞の小胞ストレス、オートファジー活性を制御することによる胚の遺伝子発現への影響および発生能との関係を調べた。小胞体ストレスに関して、体外成熟時に小胞体ストレスを阻害した場合、2細胞期に関連遺伝子の発現が低下していたため、このことが胚盤胞期への発生率向上と関係すると推察された。そこで、体外成熟に引き続き2細胞期まで小胞体ストレス阻害を継続することで大幅に胚盤胞期への発生率が向上することが明らかとなった。オートファジーに関しては、オートファジーの誘導および阻害処理を行った胚の2細胞期および4細胞期における関連遺伝子の発現解析を行った。その結果からこの時期にオートファジー関連遺伝子の発現レベルと胚盤胞期までの発生率が関係することが明らかとなった。具体的には、この時期にアポトーシス誘導遺伝子の発現量が高い、すなわち、オートファジーが活発に起こっている胚において胚盤胞期への発生率が高いことが明らかとなった。また、得られた胚盤胞期胚におけるアポトーシス陽性細胞率も低下することから胚盤胞期胚の品質も向上することが明らかとなった。一方、小胞体ストレスを阻害した胚の胚盤胞期での遺伝子発現を調べた結果、小胞体ストレスマーカーとされるPERK、ATF4、GRP78が増加するという予想外の興味深い結果も得られた。特にATF4およびGRP78はオートファジーを促進する可能性が報告されており、今後、これらの関係について詳細を調べる必要があると考えられた。
|