研究課題/領域番号 |
20K06379
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
阿部 靖之 県立広島大学, 生物資源科学部, 准教授 (80447086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵子 / 凍結保存 / 未受精卵 / マウス |
研究実績の概要 |
ウシ未受精卵の凍結保存は,優良牛の増産や効率的な育種改良を可能にする,重要な技術である.未受精卵の中で,排卵卵子は染色体分散などの凍結障害や,回復培養による過成熟などが懸念される一方で,卵巣内卵子は卵核胞で染色体が保護され,凍結に対する高い抵抗性を期待できるが,実際には凍結処理による品質低下を免れない.本研究では,卵巣内卵子を対象として,凍結時に卵子の品質を低下させる原因究明と,有効な凍結保存法の開発を行った.凍結障害は細胞骨格や細胞小器官にも認められており,中でも,小胞体(Endoplasmic Reticulum:ER)へのダメージ(ERストレス)はマウス着床前胚にアポトーシスの原因となって,その後の胚発生に悪影響を及ぼすことが報告されている.そこで,マウス卵巣内卵子において,カスパーゼ12発現をマーカーとしてERストレスを調べた結果,凍結保存によって小胞体ストレスが誘導されることが示された.その改善策として,凍結前にERストレス阻害剤(ER Stress Inhibiter: ERSI)を処理することにより凍結後の生存性向上を試みた結果,凍結卵子(ERSI非処理)と比較してERSI凍結卵子(ERSIで凍結前処理)では,カスパーゼ12の発現量(蛍光強度)が有意に減少し,成熟率および受精率,胚盤胞発生率も改善された.現在,ウシへの応用に向け,処理のタイミングおよび濃度を検討している. 加えて,卵子の凍結保存が娩出された産子に及ぼす影響を調べるため,インプリント遺伝子やエピジェネティック修飾に関わる遺伝子の発現を,マウス卵子を用いて調査した.その結果,排卵卵子に比べ卵巣内卵子の方が凍結保存による発現変化が大きかった.卵子の凍結保存は,毒性がある高濃度の凍結保護剤で卵子を処理した後に液体窒素に浸漬して冷却するが,特に冷却操作が大きく影響を及ぼすことが示された.これらの知見をもとに,凍結法を改良する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス流行の影響で,実験材料であるウシ卵巣の入手が困難な状況が継続していたため,主にマウス卵子を用いて解析を行った.凍結保存が卵子の微細構造に与える影響を調べ,特に小胞体への影響を明らかにするとともに,その影響を緩和し卵子品質を向上する処理法を開発した.さらに,凍結卵子の遺伝子発現解析を行い,影響を受けやすい遺伝子や凍結処理の中でも影響が大きい操作を特定することができた.
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今後の研究の推進方策 |
実験材料のウシ卵巣は,新型コロナウィルス流行の影響で入手が制限されていたが,その影響は緩和されつつある.これまでのマウス卵子を用いた実験から得られた知見および開発した技術をウシ卵子に応用し,その効果を検証するとともに,動物種差を踏まえながら解析・技術開発を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった学術集会がオンライン開催となったことや,採材が中止となったことから,計画よりも旅費が少なかった.2022年度の学術集会参加や採材のための旅費・会費として使用する.
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