研究課題/領域番号 |
20K06382
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
川井 泰 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00261496)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗菌ペプチド / ナイシン / エタノール / 保存性 |
研究実績の概要 |
ナイシンは、チーズ製造用乳酸菌(Lactococcus lactis)により生産される抗菌ペプチド(バクテリオシン)で、日本(2009年に認定)を含む世界50ヶ国以上で食品添加物として使用されている唯一のバクテリオシンである。当研究室では、中性pH域で溶解性低下によりナイシンの抗菌効果が大幅に低減することを抑制する溶媒としてエタノールを選抜し、次いでこれまで検討されていなかった高濃度(70~80%)エタノールとナイシンを組み合わせた高い殺菌効果を有する市販・実用化可能な抗菌スプレーの開発を目指すことを目的としている。 エタノール・ナイシン溶液の市販化には長期間での活性安定化が望ましく、本溶液のナイシン活性は4℃保存下で比較的安定であるものの、37℃下では短期間(4週間程度)で大幅な活性低下が認められている。そこで本年度は、80%エタノール・ナイシン溶液の各種条件下における保存性向上および活性低下要因の解明について検討を試みた結果、30℃および37℃にて、ナイシン添加濃度2.5ppm以上、pH4(乳酸により調整)、および遮光有りでナイシン活性が半年間以上で維持されることを見出した。本成果により、エタノール・ナイシン溶液の常温保存が可能となり、上市可能な状態に到達出来たと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、開発したエタノール・ナイシン溶液が上市できる確証を得ることが最大の目標であり、初年度で長期の常温保存を可能とする条件を確立出来たことから、おおむね順調に進展していると判断した。しかしながら、食肉(牛、豚、鶏)、各種調理用器具、および各供試菌(食品腐敗に関与する乳酸菌、各種食中毒原因菌、および調理用器具分離菌)に対して各濃度のエタノール・ナイシン溶液を噴霧(スプレー)し、より詳細な除菌・殺菌効果を調べることは、的確な条件設定と試験遂行に左右されるため、慎重な研究の組み立てが求められる。令和3年度では該当する本エタノール・ナイシン溶液の効果・有効性について効率よい形で確証を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の「現在までの進捗状況」で記載したエタノール・ナイシン溶液の実際を想定した除菌・殺菌効果の応用研究に加えて、基礎的な研究として、ナイシンに対して高い抵抗性を有するナイシン生産菌やナイシン耐性菌に対する、エタノール・ナイシン溶液の効果について検討を試みる。また、ナイシン耐性因子(NisI・自己耐性タンパク質およびNisEFG・ナイシン排出トランスポーター)を発現(含改変)させた指標菌に対して、各濃度のエタノール単独、ナイシン単独、およびエタノール・ナイシン溶液を感作させ、各因子の関与とその耐性能を解析し、その要因について考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による研究室の人数制限ため、予定していた(ナイシン耐性因子等の)遺伝子導入実験を次年度へ繰越としたことに伴うサーマルサイクラー(58万円)の購入中止と、申請金額の減額に伴う計画に準じた予算執行(物品費)の差額が次年度使用額(390,049円)となった。 今年度(令和3年度)は、抗菌スペクトルの測定を含む該当年度の予定通りとなるエタノール・ナイシン溶液の噴霧試験およびナイシン耐性因子の遺伝子導入試験とその抗菌効果の検証を開始する予定である。
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