研究課題/領域番号 |
20K06385
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
林 憲悟 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (70563625)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トロンボスポンジン / 子宮 / 妊娠 / ウシ |
研究実績の概要 |
本研究は、主要な血管新生抑制因子であるトロンボスポンジン(TSP)ファミリーに着目し、TSPに制御されるウシの子宮内膜機能と受胎性との関連を明らかにすることを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。 1) 着床期前後のウシ子宮内膜におけるTSPファミリーの発現動態の解析 発情周期15、18日目および妊娠15(着床前)、18(着床開始)、20(着床)、27日目(着床後)の黒毛和種経産牛より子宮内膜組織を採取し、TSPファミリーのリガンド(TSP1およびTSP2)と受容体(CD36およびCD47)のmRNA発現動態をリアルタイムPCRにより解析した。その結果、発情周期15から18日目で各遺伝子の発現量は増加したが、妊娠牛では増加せず、妊娠18日目のTSP1、TSP2、CD36 mRNAは発情周期よりも発現量が低かった。よって、妊娠18日目においてTSPが抑制されることで子宮内膜の血管新生が活発化する可能性が示された。また、妊娠27日目のTSP1、CD36、CD47 mRNAは妊娠15、18日目より発現量が低く、TSPの減少は着床に伴う組織再構築に関与している可能性が示された。 2) リピートブリーダー(RB)および正常に受胎するウシの子宮内膜におけるTSPファミリー発現の比較 正常に発情周期を回帰するが3回以上人工授精しても不受胎であるRB牛と正常牛において、発情周期15日目の子宮内膜における、TSPファミリーおよび主要な血管新生因子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)ファミリーのmRNA発現量をリアルタイムPCRにより解析した。その結果、TSP1およびCD36 mRNAはRB牛において正常牛よりも発現量が高いが、VEGFファミリーは両群でmRNA発現量に差はないことが明らかとなり、RB牛の子宮内膜では血管新生が抑制されている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究実施計画に従い着床期前後のウシ子宮内膜におけるTSPファミリーの発現動態を解析し、着床時では発情周期と比較して発現が減少すること、着床後は着床時よりも発現が減少することを明らかにした。現在、着床時の子宮内膜におけるTSPファミリーのタンパク質発現局在を免疫組織化学染色により解析している。また、リピートブリーダー(RB)牛と正常牛の子宮内膜におけるTSPファミリー発現を比較し、RB牛ではTSPファミリーの発現が亢進されることを明らかにした。さらに、長期不受胎に伴う子宮内膜の血管新生の抑制状態を検証するため、RB牛と正常牛の子宮内膜組織において、血管内皮細胞特異的因子であるフォン・ヴィレブランド因子の免疫組織化学染色を行い、組織切片あたりの血管数および血管密度の解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠早期およびRB牛の子宮内膜におけるTSPファミリーの発現解析により、TSPファミリーがウシの子宮内膜機能や受胎性に関与している可能性が示された。したがって、研究実施計画に従い以下の2つの仮説を検証する。仮説1「胚由来の妊娠認識物質であるインターフェロンタウ(IFNt)はウシ子宮内膜におけるTSPファミリー発現の主要調節因子である」:妊娠に伴う子宮内膜におけるTSPファミリー発現の制御機構を明らかにするため、子宮内膜組織片培養にウシ組換えIFNtを添加し、組織中のTSPファミリーの遺伝子発現量およびタンパク質濃度を解析する。仮説2「ウシ生体の子宮におけるTSPファミリーの抑制処理は受胎率を改善する」:血管新生の抑制状態を解除することで血管新生が起こり易くする状態になることが、胚死滅を防止し妊娠成立に向けた子宮内膜の変化であることを明らかにするため、ウシ生体の子宮内にTSP1インヒビター(LSKLペプチド)を非外科的投与し、TSP1の抑制が受胎性に及ぼす影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
子宮内膜組織におけるTSPファミリーの遺伝子発現解析が順調に進捗したことから「消耗品費」が一部未使用となったこと、国内学会における研究成果公表のための「国内旅費」が未使用となったことにより次年度使用額が生じた。使用計画として、子宮内膜組織培養実験に必要とされる「組織培養用試薬および消耗品類」、「遺伝子発現解析用試薬」および「生化学実験用試薬および消耗品」に加え、ウシ子宮内投与実験のための「投与試薬および消耗品」に充当する。
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