本研究は、主要な血管新生抑制因子であるトロンボスポンジン(TSP)ファミリーに着目し、TSPに制御されるウシの子宮内膜機能と受胎性との関連を明らかにすることを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。 (1)ウシ子宮内膜のTSPファミリー発現に及ぼすインターフェロンタウ(IFNt)の影響:ウシ子宮内膜組織片培養を用いて、ウシ組換えIFNt(100ng/ml)、妊娠18日齢および27日齢ウシ栄養膜タンパク質抽出物(200ng/ml)を添加した後、TSPおよび受容体の遺伝子発現量を解析した。その結果、胚由来の妊娠認識物質であるIFNtや栄養膜タンパク質は、妊娠初期の子宮内膜におけるTSPファミリー発現の主要な調節因子として作用していない可能性が示された。 (2)胚と子宮細胞間のクロストークにおけるTSPファミリーの生理的役割の解明:細胞培養系を用いて、TSP1(0、1、10、100、1000ng/ml)添加がウシ子宮内膜上皮細胞およびウシ栄養膜細胞株(BT-1細胞)の増殖能、BT-1細胞の浸潤能、ウシ子宮内膜上皮細胞とBT-1細胞の接着に及ぼす効果を検証した。その結果、TSP1添加によるウシ子宮内膜上皮細胞および栄養膜細胞の増殖に変化は見られなかったが、TSP1(1000ng/ml)添加により、BT-1細胞の浸潤は促進され、両細胞間の接着は抑制された。 本研究の一連の成果から、TSPは胚と子宮内膜間の相互作用により、着床に伴う子宮内膜の組織リモデリングや胎盤形成の開始に関与している可能性が示された。さらに、長期不受胎牛の子宮内膜では血管新生が抑制状態にあることが明らかとなり、子宮内膜における適切な血管系の構築が、子宮機能の変化による雌牛の妊孕性と密接に関連している可能性が示された。
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