ブタにおける卵活性化機構の解明を目的として、Phospholipase Cζ (PLCz)が唯一の卵活性化因子 (sperm factor)なのかを検証する。 実験① PLCz以外のsperm factorの探求:受精時のPLCzによる卵活性化を阻害するため、Tripartite motif-containing protein-21 (Trim21)に抗体を結合させ標的タンパク質を分解するTrim-Away法によるPLCzノックダウンを試みた。まず、作成したPLCz抗体でTrim-Awayが機能することをPLCz発現Cos7細胞で確認した。しかし、PLCz mRNA注入ブタ卵子ではTrim-AwayによるPLCzの機能阻害を認められず、注入条件など更なる検討を要する。一方で、sperm factor候補の1つとされるPost-Acrosomal WW Binding Protein (PAWP)の卵活性化能も評価した。PLCzはPAWPと異なり精子膜に損傷を受けると大部分が精子外に流出するため、ブタ精子を界面活性剤で処理し、PAWPは保有するがPLCzは激減した精子を作出した。この精子をブタ卵子に注入したところ、ほぼ全ての卵子で活性化が生じなかった。これは、PAWPがsperm factorである可能性が低いことを示唆する知見といえる。 実験② 卵子と精子の膜融合を起点とする卵活性化機構の探究:受精時に生じる膜融合が卵活性化に寄与するかを、PLCz遺伝子欠損ブタの精子を用いて検証する。ゲノム編集によりPLCz遺伝子の両アリルに変異を導入したブタ体細胞を用いて核移植し、仮腹ブタへの胚移植を行ったが、現時点で産子作出には至っていない。PLCz以外の卵活性化機構が存在するのであれば、PLCzと組み合わせることで効果的な人為的卵活性化法の開発につながるため、引き続き研究を進めていく。
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