研究課題
小胞体は、膜蛋白質・分泌蛋白質の産生の場であると供に、細胞内カルシウムストアや脂質代謝器官としての機能を有する。ミスフォールドタンパク質の蓄積に伴う小胞体内環境の悪化は、小胞体ストレスをの原因となるばかりではなく、ミトコンドリアやリソソーム、プロテオソーなどその他の細胞内小器官の恒常性維持に大きな影響を及ぼす。私はこれまでに、小胞体内でミスフォールド化しその構造異常により活性低下が誘導される発光タンパク質をベースとした分子プローブを作成し、食品機能性成分より、抗小胞体ストレス効果を有する共通のベンゼン環骨格を有する6種の近縁ポリフェノールを、抗小胞体ストレスの候補薬として同定した。これら薬剤について、ツニカマイシンによる小胞体ストレスや変異Myelin Protein Zero del506Tに対る細胞膜への輸送効果について確認してきたが、細胞膜への輸送促進に伴う機能回復を評価する事は、これまでの手法では困難である。そこで、機能が明らかな細胞膜タンパク質で、培養細胞で簡便に機能解析が可能な実験系を模索した。卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)は卵巣顆粒細胞に発現する膜タンパク質で、細胞外のアミノ酸置換により細胞膜への輸送の障害が生じることが報告されている。ヒト野生型FSHR及び疾患関連変異体をクローニングし、強制発現細胞での発現量を比較したところ、変異により構造の異常が原因と考えられる大幅な発現低下が観察された。次に野生型FSHRはG蛋白質共役型7回膜貫通受容体であることから、リガンド刺激に伴うcAMPの産生について、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いて解明した。その結果cAMPの産生は受容体の発現依存的に観察され、同定済みポリフェノールによる変異タンパク質の機能回復を評価する事に応用可能であることが示唆された。
4: 遅れている
これまでに同定した小胞体ストレスを軽減するポリフェノールの効果について、ツニカマイシンと変異Myelin Protein Zeroの2つのストレスでしか検証が進んでおらず、類似のポリフェノールの抗小胞体ストレスの効果の検証が未実施である。また小胞体ストレスに起因する疾患モデル動物を用いた生体内での効果についても着手できなかった為。
次年度は、研究実績の概要にも記したFSHRの活性評価系を用い、抗小胞体ストレス薬として同定済みのポリフェノールの効果を、変異FSHRの機能回復の点から検証を進める。また、小胞体内でミスフォールド化する既知のタンパク質の構造改善効果を生化学的手法により解明する。次に、同定済みのポリフェノールに構造上近縁の化合物について、私が開発した発光タンパク質プローブを用いて検索を進めより活性の高い化合物の同定を進め、細胞を用いた一連の成果の論文化を目指す。
予想外の業務が生じ、本研究を遂行するための時間が十分に確保することができなかった為、期間延長を申請した。次年度の経費の大半は、抗小胞体ストレス薬の評価実験に当て、論文化の目処が立てば英文校正や投稿料などに充てる。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Neuroscience Research
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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