研究課題/領域番号 |
20K06392
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
山口 剛士 鳥取大学, 農学部, 教授 (70210367)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウィローム解析 / 野生動物 / 環境水 / ウイルス叢 |
研究実績の概要 |
本研究では、野生動物が利用する水場環境のレゼルボアとしての実態や未知ウイルスの存在を明らかにするため、野生動物の生息環境にある湖沼などの環境水に着目し、環境水を利用する動物の種同定と環境水からの網羅的ウイルス遺伝子の検出によるウイルス叢解析を行っている。2021年度は、初年度未解決だった環境水からのウイルスRNAの調整とcDNA合成およびその増幅について至適条件を確立すると共に、環境水の解析に加え水場環境を利用する水鳥から採取したスワブ検体についても同様の解析を行った。具体的には,野生動物が利用する国内3ヵ所で採取した環境水、採水地点の1ヵ所で捕獲した水鳥および他の場所で採取された水鳥狩猟個体の気管およびクロアカスワブを対象にウイルス叢の解析を行った。 これまでの解析で、哺乳類や鳥類に明らかな病原性を示すウイルスは検出されていない。また、スワブ検体と環境水では異なる配列が検出され、環境水と水場を利用する水鳥から検出されるウイルスが必ずしも一致しないことが示された。しかし、試験に供した全ての環境水から哺乳類や鳥類との関連が報告されているGenomoviridaeやPicornaviridaeに属するウイルスのゲノム配列と高い相同性を示す配列が高率に検出された。また、各環境水から検出された動物種との関連が報告されているウイルスゲノム相同配列も複数検出され、採水地点の1つでは、環境水から検出された動物種糞便からの検出報告があるAdenoviridaeに属するウイルスのゲノム配列ほぼ全長が検出された。以上より、環境水中には野生動物に由来する多様なウイルスが存在し、環境水を対象にしたウイルス遺伝子の網羅的検出が野生動物から環境中へのウイルス排出状況の理解や環境水のレゼルボアとしての実態解明に有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、野生動物が利用する環境水のウィローム解析に必要な、大容量環境水からのウイルス濃縮条件およびDNAウイルスの検出系を確立したが、RNAウイルスが検出されず対応が必要とされた。2021年度は、RNA調製条件を確立し、DNAウイルスに加えRNAをゲノムとするウイルスの環境水からの検出条件を確立した。また、膨大な次世代シーケンスデータから効率良くウイルスゲノム相同配列を検出する解析手順を確立した。これにより、Picornaviridaeを始め多様なRNAウイルスの検出に至った。また、採水地点と同一地点で捕獲された野鳥の気管およびクロアカスワブを対象に同様の解析をすることで、環境水から検出したウイルス叢とそこに棲息する動物から検出したウイルス叢との比較が可能になった。この他、初年度に実施できなかった春期の環境水採取およびウイルス叢解析を終え、初年度に発生した遅れをほぼ取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に環境水やその環境水を利用する動物のウイルス叢解析を推進する。これまでは、主に野鳥が多く飛来する水場の環境水を対象に解析していたことから、もし入手可能であれば陸棲動物が多く利用する環境水や陸棲動物のスワブなどについても同様の解析を行う。また、これまでの解析で検出されたウイルスについて、検出された配列をもとに特異プライマーを設計しPCRによる検出を試みると共に、培養細胞等を用いた分離を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に計画していた解析条件の確立に遅れが生じ、本来初年度に終えるべき解析条件の確立が2021年度にずれ込んだ。また、当初は同一地点での経時的な採水および解析を実施していたが、検出されるウイルスに有意な変化が認められなかったため、同一地点での採水を減らし、他の採水地点での採水とスワブサンプルの解析に計画を一部変更した。これにより、本来予定していた同一地点でのウィローム解析の回数が減るとともに、新たな採水地点の選定に時間を要し次年度使用額が生じた。次年度への繰越理由は既に解決しており、今後は環境水や野生動物由来サンプルを対象に、計画通り解析を実施する。また、これまでに検出したウイルスの分離や遺伝子検出を当初の計画通り実施する予定である。
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