本研究では、野生動物を宿主とするウイルスの野外環境における実態解明を目的に野生動物生息環境で採取した環境水および水場を生息環境とする渡り鳥を対象に網羅的ウイルス解析および環境水からの動物由来遺伝子の検出を行った。2022年度は、野生動物がヌタ場として利用する水場や沢、養鶏場近くのため池から採取した環境水を対象に新たな解析を行うと共に、前年度までに得た配列データの再解析を実施した。 ヌタ場からは、主にイノシシおよびニホンジカの遺伝子が検出され、ウイルス遺伝子としてはマダニ類を宿主とし哺乳動物からも検出例のあるフラビウイルスゲノムと高い相同性を示す配列が多数検出された。ニホンジカ生息地の沢や水場からは、主にニホンジカの遺伝子が検出され、国内では報告例のないアストロウイルスやピコルナウイルスのゲノムと高い相同性を示す配列が検出された。これらウイルスは、シカや反芻獣に病原性を有する可能性が報告されており、本研究により、国内でも感染実態の解明が必要と考えられた。養鶏場近くのため池では、鶏とカモ類の遺伝子と共に、鶏に病原性を示す複数のウイルスゲノム相同配列が検出された。過去に得た配列データの再解析でも、周辺に養鶏場や養豚場がある野生動物生息環境内の水場から、鶏や豚に病原性を示す複数のウイルスゲノム相同配列が検出され、家畜・家禽由来ウイルスが環境水を介し、野生動物に伝播している可能性が示された。 以上、本研究により国内未知ウイルスを含む多様なウイルスが、野生動物生息環境内の水場に広く存在し、これらが野生動物間で維持されている可能性が示された。また、水場を生息環境とする渡り鳥が国外からのウイルス持ち込みに関与することが示された。さらに、野外環境水から家畜や家禽由来と考えられる複数のウイルスゲノム相同配列が検出され、野生動物と家畜・家禽間のウイルス伝播における水場の重要性が示された。
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