研究課題/領域番号 |
20K06396
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
日根野谷 淳 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (20548490)
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研究分担者 |
山崎 伸二 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (70221653)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Escherichia albertii / アライグマ / 自然宿主 / Eacdt / stx2 / 志賀毒素 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は新興人獣共通感染症細菌Escherichia albertiiの自然宿主を明らかにすることにある。具体的には、予備研究により高率に本菌を保菌することを見出したアライグマについて、その保菌動物としての重要性を評価するために分子疫学的アプローチを取り入れた詳細な保菌調査を行った。その調査期間は2020年度と2021年度の2年間で、調査個体数はそれぞれ約230個体および約140個体で、その保菌率はいずれも約6割であった。即ち、アライグマが高率かつ安定的にE. albertiiを保菌することを示している。アライグマの保菌率について捕獲地域による差はほとんどなく、アライグマが自身の生息地域に関係なく、本菌を保菌していることが明らかになった。検査試料としては直腸スワブを用いているため、便重量当たりの菌数を算出することはできないが、アライグマの中にはSuper shedderに該当する排菌数を示す個体も認められた。分離できたE. albertiiの細菌学的性状解析を行ったところ、調べた分離株の中に多剤耐性株はなく、ほとんどの菌株が調べた薬剤すべてに感受性を示したため、アライグマが抗菌薬等の薬剤により選択的に本菌を保菌しているのではない可能性が示された。分離株についてPFGEによる回答解析を行ったところ、アライグマは系統的に多様なE. albertiiを保菌していること、更に一定数の個体は、複数種のE. albertiiを保菌することが明らかになった。また、分離株は臨床分離株と同様に病原遺伝子としてeae遺伝子を保有し、一部の菌株がstx2やEccdt-Iといった外毒素遺伝子も保有しており、アライグマ由来株がヒトへの病原性を持つ可能性が示された。即ち、アライグマは多様なE. albertiiを保菌できる重要なリザーバーである可能性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度および2021年度は、大阪府下で捕獲されたアライグマを対象としたE. albertiiの保菌調査、保菌個体からのE. albertiiの分離、分離株の細菌学的性状解析、および分離株の遺伝学的系統解析を行うことを予定していた。保菌調査、分離についてはおおむね予定通り実施し、データを取得できた。分離株の性状解析においても、計画通りデータを得ることができた。また、菌株の系統解析についても、予定していた内容を遂行できた。よって、2021年度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度および2021年度の2年間で得られた調査結果について、アライグマの個体情報を取り入れて、保菌率と季節性、地域性、性差等との関係について比較解析を行う。年度末に供試した保菌個体から得られたE. albertii株の解析は実施できていないため、それらの細菌学的性状解析(生化学的特徴、病原遺伝子プロファイル、薬剤感受性プロファイル、毒素産生性など)、分離株のタイピングおよび遺伝学的系統解析を実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
PFGE解析において、アライグマ由来株には多様な遺伝子型が存在することが明らかになった一方、今回比較に用いた臨床分離株と同一の遺伝子型を示すものなどは認められなかったため、ゲノム解析は実施しなかった。また、国際学会での成果発表を予定していたが、新型コロナウイルス感染症による影響で参加できなかった。これらにより余剰金が発生したため、使用額が当初の予定額よりも少なくなった。2022年度は、解析未実施の菌株の性状解析を行い、得られた結果から菌株を選定し、繰越金を利用してゲノム解析を行う。また、国際学会での成果発表を予定しているため、海外渡航等して使用する。
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